皇室を支える気構えの大切さ…昭和史研究の保阪正康
「華族たちの昭和史」(毎日新聞社)

「皇室の藩塀」たる華族制度は戦後、消滅したがそれでよかったのか。昭和天皇の崩御から20年。皇室を取り巻く環境が混迷するなか、昭和史研究の第一人者、保阪正康さんが今やなじみのなくなった華族の史実について著した。
−−なぜいま華族制度について書こうと?
「華族とは公家と、かつての大名や明治政府で勲功のあった人などで構成された天皇を守る身近な勢力で、天皇家を支えてきた階層です。新憲法の発布で階層自体がなくなったわけですが、ある程度は残した方がよかったんじゃないか。そう思い、かつての華族制度とはどういうものだったのか調べ始めたのです」
−−残した方がよかったとは
「天皇家がマスコミで冷やかされたりするのはすごく腹が立つんだけど、それもガードする役割の華族という中間勢力がいなくなったからではないかと思う。もちろん、侍従などがいますが、それは仕事。戦後、いろいろなものを壊したが、公爵以上の華族ぐらいは残してもよかったんじゃないかと思います」
−−昭和天皇の「近衛は弱いね」という有名な発言などもありました
「辞めることのできない天皇からみれば華族の人たちは一本芯がない、ということを冷やかしたのでしょう。近衛文麿や牧野伸顕、木戸幸一などみな本当に困難なときは逃げてしまう。近衛家なんて1000年以上、天皇のそばにいるのに自分の思い通りにならなかったり、重要な責任を負うとスッと逃げちゃう。あれは何なんでしょうね」
−−途中で投げ出す今の政治家に似ています
「今の政治の問題は世襲議員が圧倒的ということ。生まれつき恵まれたポジションにいるから世間知らずで庶民の生活を知らない。華族と似てますね。選挙にも強く、それなりにインテリで、やろうと思えば政策を大胆にやれるのに何かもうひとつエネルギーが出ないんですね」
−−昭和史が見直されています
「同時代で史実を語ると政治的にいいか悪いかという話になるが、昭和は歴史になりました。三島事件について30年前に書いた時は『おまえは軍人がいいと思っているのか』と電話がかかってきたのに、いまはそうじゃない。同時代では解釈が先に来るが、歴史になったことで史実の問い直しが始まったのです」
−−昭和史における華族とは
「頼りない面があったとはいえ、華族制度があったから昭和天皇は精神的にも安心できただろうし、守る気構えの人が階層を作っていることで天皇制が強かったと思います。華族たちは『名天皇になってほしい』と昭和天皇を支え、昭和天皇もそれに応えようとしたのではないでしょうか」

■「華族たちの昭和史」(毎日新聞社、1470円)
公家華族と勲功華族との対比や、東條英機ら軍官僚の爵位への憧れと華族階級への侮蔑心など、これまでにない視点で昭和の華族を論じている。
【ほさか・まさやす】 1939年札幌市生まれ。同志社大卒。昭和史の実証的研究のため、延べ4000人に聞き書き取材を行い「昭和史講座」の刊行を続ける。2004年菊池寛賞受賞。「昭和陸軍の研究」「秩父宮」「あの戦争は何だったのか」など著書多数。
ZAKZAK 2009/02/06
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