利休に聞く、今我々がすべきこと…作家・山本兼一さん

茶人千利休の美学の謎に迫った第140回直木賞受賞作「利休にたずねよ」(PHP研究所)。著者の山本兼一さんが利休から“聞いた”ものは美への激しい執着、そして美の深淵をのぞいた男のおののきだった。
【執着とおののき】
−−利休には“絶対美感”がそなわっていたと
「タカ匠、大工、刀鍛冶など日本の文化と美を追求した職人を書いてきて、次はと考えたら利休の番だった。すでに野上弥生子さんや井上靖さんが利休の死の謎については書かれている。そこで僕は死ではなく美の謎を解きあかそう、と。
利休は茶以外にも風の音や空の色など森羅万象の中に美を見いだした男。生まれながらに絶対音感ならぬ絶対美感を持つ美の巨人だったに違いないとにらんだのです」
−−新しい利休像ができた背景は
「豊富なエピソードです。100個の棗(なつめ)の中から最高のものをひとつ選ばせ、それを元に戻して再度選ばせたら同じものを手に取ったとか、主君豊臣秀吉が欲しがった灯篭を割って断りの返事に変えたとか。また枯れ寂びた床に椿の、しかもつぼみを生けて命の輝きを強調し、それが侘び寂びの精神だと言い切ったり。あざとくなくキリリとした美学に裏打ちされた言動がときには尊大にも倣岸にも見えたでしょう。でも僕はそこに彼の大きさと生きる力の並々ならぬ強さを感じたものですから」
−−延長線上には
「−恋。相手は朝鮮のヤンバン(高級官僚)の家に生まれた姫という設定にしました。権力闘争の犠牲になり、日本の戦国大名の側室にとらわれてきた美しい女性に19歳の利休が恋をします」
−−姫の小指の骨と爪を香合に入れ70歳まで生きたのも美の形?
「ですから秀吉に所望されても絶対にあげませんね。秀吉は京都大徳寺の利休の木像が不敬である、茶道具を高値で売っていると難癖をつけて利休に切腹を命じますが」
【「日本が遠い、文化に接しないから」】
−−利休を通して訴えたかったのは
「今、日本が遠い。この国に生まれたはずなのに、です。それは日本文化のいいところに接しないできたからではないか。たとえば茶事は和みの場であり、人と人との適度に間を置いた淡いコミュニケーションの空間。そうした日本美を知ることで、日本がもっと近くなればいいですね」
−−ご自身は利休の美を堪能?
「自宅から車で10分のところにある仕事場に風炉を置き、炭で火をおこして茶釜で湯を沸かし干菓子を食べながら薄茶を飲むことぐらい(笑)。湯の沸き始めのクックッという音や、その後に続く松籟を聞くがごとき音、これらは小説に存分に生かしましたよ」

■「利休にたずねよ」(1890円、PHP研究所)
利休70歳の切腹の日から運命の人と出会う19歳の日まで、時間をさかのぼって、利休が求めた美の物語をひもといていく。構想3年。「最後のシーンまできちんと決めてから書きました」
■やまもと・けんいち
1956年、京都市生まれ。同志社大学卒。「火天の城」で第11回松本清張賞受賞。同作など3度目の正直で直木賞作家に。
ZAKZAK 2009/02/20
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