さらに問題なのが、副作用への対処だ。抗認知症薬の副作用は過度に恐れる必要はないが、本人の「伝える力」が低下しているため、副作用による症状が認知症の症状と混同されやすい−という側面がある。副作用の頻尿や下痢で落ち着きがなくなったり、イライラしたりすると、それが症状の進行と捉えられてしまう場合があるのだ。
「そのため主治医が薬の増量や新たに向精神薬を加える“悪循環”に陥りやすい。薬を服用する際は注意してほしい」
とはいえ、大石医師は薬物療法には一定の理解も示す。家族や人手が足りない施設介護者の大変さを考えると、薬に頼りたくなる気持ちもわかるという。認知症の薬への期待や依存は、日本の介護の脆弱さを表しているといえるかもしれない。
「認知症は治せない−ということを踏まえると、住み慣れた場所で張り合いのある生活を送ることに目標を置くべきだが、今はそのための家族や介護者への教育が不足しています」
認知症患者への接し方は重要であり、本人への対応ひとつで見間違えるように表情が明るくなることもある。こと認知症に関しては、薬物療法より、認知症への理解を深める環境づくりが重要なのだ。 (吉澤隆弘)