【最新「死に方」事典】「死なせる治療」解けぬ矛盾

2014.11.09

 米国オレゴン州で、末期の脳腫瘍で余命半年と宣告されたブリタニー・メイナードさん(29)が、「自死宣言」通りに死亡したため、世界中で安楽死を巡る論争が巻き起こった。そこで今回は、医者の立場からこの問題に触れてみたい。

 まず、言っておきたいのが、今回のケースは厳密に言うと「自殺幇助(ほうじょ)」ということだ。多くの方が安楽死について誤解しているが、じつは安楽死には2通りある。1つは積極的な安楽死というもので、今回のように医師が患者の意思を尊重して死ぬための薬などを与えるケースだ。もう1つは患者の意思を尊重するのは同じだが、薬などの死に至る処置はせずに延命治療をやめること(尊厳死)。

 前者は、米国では今回のオレゴン州のほか4州が、世界ではオランダ、ベルギー、スイスなどが合法化している。しかし、日本ではこれを認める法律はない。なぜなら、死ぬための薬を与えることは、「自殺幇助」とされるからだ。そうなると、現在の刑法に触れる。

 実際、日本の医師の多くが、この積極的安楽死には反対している。それは合法化されていないという以前に、いくら患者さんの意思とはいっても、自らの手で他人の死期を決め、そのための処方をするのは、倫理観が許さないからだ。

 「安楽死と言うけど、それを実行する医者の立場になったら、とてもできるものではありません。倫理の問題もありますが、本来、医者とは命を救うのが使命で、その逆もまた使命というのは矛盾しています」

 こう、私の知人の医師の多くが言う。その中には、こうも言う医師もいる。

 「生きる権利があるなら死ぬ権利もあると主張する人もいますが、積極的安楽死の合法化は、患者の権利ではなく、医者に死なせる権利を与えることですから、そんなもの欲しくありません」

 この辺の問題は非常に難しく、私自身も迷う。果たして安楽死が医療行為なのかという、大きな疑問もある。ただし、安楽死支持者や団体は、「安楽死は医療」と捉え、患者を肉体的・精神的な苦痛から救うことだと主張している。

 もちろん、一個人としては、苦痛を伴う延命治療だけは受けたくはない。もし自分で死期を決めてそれが実行できるなら、そうしたい気持ちはある。

 今回のケースによる米国国内の世論を見ても、やはり大きく割れている。また、全米の67%の医療関係者が、医師による自殺幇助に反対しているという話も伝えられた。

 ただ、これはリアル過ぎて書きづらいが、医師による自殺幇助による安楽死が認められると、どうなるだろうか。

 おそらく、日本のような高齢化大国では、積極的安楽死はかなり増えるだろう。すると、現在、社会的な大問題となっている医療費の増加は抑えられることになる。

 医師の投薬などによる安楽死が合法化されたベルギーでは、2013年には1816人が安楽死を選んだ。ベルギーの人口は約1120万人。高齢化率も日本よりは低いが20%は超えている。そこで、人口比で考えると日本では毎年約2万人が自殺幇助を受けて死ぬことになる。

 このように、安楽死の合法化は、末期患者が長期治療を受けるよりも、死を選択してくれれば、国家財政が助かり、一般国民の負担が減るという側面もある。

 果たして、あなたはどう考えるか。

 ■富家孝(ふけたかし) 医師・ジャーナリスト。1947年大阪生まれ。1972年慈恵医大卒。著書「医者しか知らない危険な話」(文芸春秋)ほか60冊以上。

 

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