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【当てちゃる券】「はっぱし?」かさ岡で聞けた競輪選手の話

 小倉に住んでいると土地柄なのか、怖い顔には慣れているんだけど、この前会ったヒロちゃんには正直ビビった。

 その日はやぼ用が済み、喉が渇いたので、小倉駅前のなじみの店「かさ岡」に立ち寄った。見渡すとカウンターの隅に座っているヤバそうなのを発見し、オレは反対側に陣取った。そいつの風貌は丸坊主にサングラス、ネックレス、腕時計(ロレックス)、指輪はすべてゴールドで決め、履物は高倉健さんと同じ素足に雪駄。顔面はというと傷があり、変形しているように見えた。

 小声で「大将、今や北九州は暴力団追放の街ばい。本職を入れたら堅気の客が怖がって来んごとなる」。

 「大丈夫ちゃ、ヒロちゃんはサラリーマンやけ」

 「なんがサラリーマンね冗談は顔だけにしてちゃ」

 「ヒロちゃんは発破士なんよ」

 「はっぱし?」

 正しくは発破技士という。

 小倉の選手の聖地・平尾台はカルスト台地で、山の裏側ではセメント会社が石灰岩を採掘している。ヒロちゃんはそこで働くダイナマイトのプロだったのだ。

 大将がオレを元競輪選手だと紹介するとこんな話をしてくれた。

 「仕事場までの登り道、毎朝、真っ暗な中、競輪選手が車の後ろに付いて登りよる。暗い中、狭いし、曲がりくねっとるから抜きにくいんよ。急いどるけ、イライラするんやけど、頑張りよるけ、広いとこまで待って抜くごとしとる」

 それは父親・孝成(59期・引退)が誘導する林大悟(109期)、慶次郎(111期)の兄弟だった。

 「怖いけどメッチャえぇ男やん! 大将、ヒロちゃんにナマひとつ!」

 その夜は良い酒だったな。

 別府初日S級特選9Rは先行不在。初日は調子を測る意味でも松岡が逃げる。番手・大坪と直線勝負。

〔3〕⇔〔1〕-〔2〕〔5〕〔7〕。

(元競輪選手)

■内田浩司(うちだ・こうじ) 1962年8月26日生まれ。福岡県出身。83年4月に51期生としてデビューし、S級上位で活躍。2015年10月29日に引退。通算435勝、優勝34回(記念Vは92年門司記念など6回)。FI先行・吉岡稔真(としまさ=福岡・65期)元選手の兄弟子で連携は多数。実直な性格と厳しい指導から“鬼軍曹”として恐れられていた。夕刊フジ競輪面にコラム『当てちゃる券』を連載中。競輪祭では特別コラム『小倉競輪祭 なう&リメンバー』を執筆。