【酔っぱライターのお酒見聞録】米にこだわり極めた地酒 観光客の見学コースをつくる計画をキッパリやめ…

米にこだわり極めた「地酒」

★石川県「日榮」(上) 

 清酒「日榮」(にちえい)を醸す中村酒造は、文政年間(1818~1829)から続く、石川県金沢市の酒蔵だ。現当主の中村太郎社長について金沢在住の人に聞いたところ、「みんなが彼について行くような、すばらしい人格者」と誰もが太鼓判を押す。実際会ってみると、たしかに物腰やわらかで、常に穏やかな笑みをたたえているような人である。

 中村家の歴史も華やかだ。とくに中村社長の祖父にあたる栄俊氏は、金沢市議会議員や、金沢商工会議所会頭をつとめた傑物。茶道と美術にも造詣が深く、茶道具の膨大なコレクションは金沢市に寄贈され、市立中村記念美術館となっている。私も訪問したが、みごとな茶碗や美しい棗(なつめ=茶器)に圧倒された。

 中村社長の経歴も変わっている。醸造を学んだり、酒関係の仕事を積んだりする蔵元が多い中、大手広告代理店の出身なのだ。さぞやその分野で手腕を発揮するのだろうと思ったら、「広告でモノを売ろうなんて、世の中そんなに甘くないですよ。だから広告はほとんど出しません。やっぱり一番良いのは口コミです」。業界の裏側を知っているからこそ出た言葉だろうか。地に足のついた経営をしている。

 2000年に改築した蔵を見せてもらったが、北陸新幹線の開業に合わせ、観光客の見学コースをつくる計画は、キッパリやめたそうだ。それより質の高い酒をつくることが先決だと、甑肌(こしきはだ=甑に接している米が均等に蒸せない部分)が出ない甑を導入し、原料処理や貯酒は冷房で冷やし、エアシューターのエアを0度にするなど、かゆいところに手が届くような設備投資をした。

 こうした取り組みによって、地の酒「地酒」を極めたいというのが中村社長の考えだ。こだわりは地元の米。日本、アメリカ、カナダ、ヨーロッパで有機認証を取得し、契約栽培農家の名前を冠した「AKIRA」。石川県羽咋市神子原(みこはら)地区の稀少米を使用した「客人(まれびと)」。これらは海外でも高く評価され、やがて世界的シェフとの共同開発へとつながっていくのである。

 ■江口まゆみ 酔っぱライター。世界中の知られざる地酒を飲み歩き、日本でも日本酒、焼酎、ビール、ワイン、ウイスキーのつくり手を訪ねる旅を続ける。近著は『ビジネスパーソンのための一目おかれる酒選び』(平凡社刊)。

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