【酔っぱライターのお酒見聞録】世界見据え「地酒」にこだわり 海外も注目、世界的シェフと共同開発も

加賀のさまざまな銘酒

★石川県「日榮」(下)

 日榮(にちえい)は、200年続く石川・金沢の地酒。「酒は災いを避け、笑門来福、日々榮える」という言い伝えの「日」と「榮」を酒名にした。

 蔵元・中村酒造の中村太郎社長によると、加賀藩には長らく居酒屋などの外食産業はなかったそうだ。外様大名ゆえ、人々が集まる場所を作ると、集団で何かを企んでいると幕府にみなされ、お家取りつぶしになりかねない、と恐れたのだ。

 やっとできた外食産業はうどん屋と料亭だったが、茶懐石では伝統的に日榮が使われていたという。今でも日榮は料亭の酒で、ラベルが出ないので知る人は少ないが、金沢のお座敷文化を代表する茶屋街で、長年親しまれている酒なのだ。

 中村社長が目指しているのは、地の酒としての「地酒」をもっと極めること。それが米へのこだわりとなった。

 ひとつは有機純米酒「AKIRA」。契約栽培農家の名前を冠したこの酒は、日本、アメリカ、カナダ、ヨーロッパで有機認証を取得している。飲んでみると、ヨーグルトのような香りで、味わいはコクがあり香ばしい。米の底力がわきあがってくるような感じだ。

 もうひとつは「石川門」。こちらは地元の米の名前を冠している。甘酸っぱい味わいで、しっかりとした米の旨味が伝わってくる。

 このほかに「客人(まれびと)」という、石川県羽咋市神子原(みこはら)の希少米を使った酒もつくっており、これはローマ法王に献上されたそうだ。

 こうした取り組みは海外からも注目され、世界的シェフ、アラン・デュカス氏と共同で、「日榮アラン・デュカス・セレクション」という酒も開発した。

 開発にあたりデュカス氏から、「もっと米の味が前面に出る酒がほしい」とリクエストされ、神子原米を70%だけ磨いた酒をつくった。飲んでみると、コクがありつつ、きれいな酸が爽やかにキレて旨い。デュカス氏の、素材を生かした軽やかなフレンチにピッタリだ。

 「日本酒ほど、原価が高いのに安価な商品はない。良い酒をつくり、そこに付加価値をつけることで、価格競争ではなく品質競争をする」と中村社長。世界を視野に、「地」へのこだわりを貫く。

 ■江口まゆみ 酔っぱライター。世界中の知られざる地酒を飲み歩き、日本でも日本酒、焼酎、ビール、ワイン、ウイスキーのつくり手を訪ねる旅を続ける。近著は『ビジネスパーソンのための一目おかれる酒選び』(平凡社刊)。