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【江口まゆみ 酔っぱライターのお酒見聞録】米で極める香りと口当たり 進化を続ける津島屋

★岐阜県津島屋(下)

 岐阜県美濃加茂市にある御代桜(みよざくら)醸造は、今注目の銘柄「津島屋」の蔵元だ。6代目の渡邉博栄(ひろえ)社長が36歳、バイオテクノロジー専攻の酒向博昭杜氏が37歳の時に立ち上げた、限定流通の新ブランドである。

 最近の日本酒が限定流通にこだわるのは、一般流通だと管理がずさんでも文句は言えず、蔵元や杜氏の思いを語れない酒販店にも、卸さなくてはならないからだ。だが、長年一般流通してきた銘柄を、限定流通に変えるのは難しい。そこで新たな銘柄を立ち上げ、ブランドを一緒に育ててくれる特約店だけに卸し、限定流通にするのだ。

 さて、津島屋のスタートは2012年。基本は生酒で、火入れする場合は1回火入れでタンク貯蔵はせず、すべて冷蔵庫での瓶貯蔵だ。また、精米歩合の違いではなく、米違いで勝負することにした。米は麹米も掛け米も同じ米で、主力の美山錦のほか、ひとごこち、雄町、八反錦、吟風などをラインアップ。最高級酒には兵庫県産の山田錦を使用している。米が主役なのでもちろんすべて純米系だ。つくりは吟醸にこだわっている。

 フラッグシップである美山錦の純米吟醸生酒を飲んでみた。熟したリンゴの香りでフルーティー。甘みはあるのにサラリと飲めて、後口はスッキリだ。なるほど、現代的な味わいなので、東京や大阪で人気が出るのもうなずける。私が最も気に入ったのは、八反錦の生。トロピカルフルーツのような香りと味わいで、酸と旨味のバランスが素晴らしい。どちらも柔らかく口当たりが良いのは、木曽川の伏流水である仕込み水のおかげだ。

 「酒向杜氏は下戸なので、香りやインパクトを重視しがち。でも私は飲兵衛なので、飲み飽きしない酒を求める。2人のバランスがちょうど良いみたいです」そう言って渡邉社長は笑う。

 リリースから6年経って、一定の評価を得た今も、決して現状に満足しない。おいしい酒をつくることに専念し、進化を続ける津島屋に、飲み手はこれからもついてくるに違いない。

 ■江口まゆみ 酔っぱライター。世界中の知られざる地酒を飲み歩き、日本でも日本酒、焼酎、ビール、ワイン、ウイスキーのつくり手を訪ねる旅を続ける。近著は『ビジネスパーソンのための一目おかれる酒選び』(平凡社刊)。