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【パリッコの「酒飲み12カ月」】そうだ、こんなときには… 夕暮れどきの「酒さんぽ」

 午後4時、日比谷でひとつ取材仕事が終わる。次の予定は午後7時に鶯谷。かなり時間があるな。さてどうやって過ごそうか。

 もちろん、さっさと移動して喫茶店で原稿のひとつでも書くのがいちばんなんだけど、本音を言えばもう酒が飲みたい。だってここのところ、あまりにも気候が良すぎる。空気はすっかり秋めいてひんやり。だけど日光に当たればとポカポカと暖かく、元来暑がりの自分としては、1年間のうちでこのくらいの時期が一番快適に感じる。そうだ、こんなときには「酒さんぽ」だ!

 酒さんぽ、それは、酒を買って飲みながら散歩すること。そのままだ。鶯谷までは直線距離で5kmくらいで、散歩にはちょうどいい。コンビニで缶チューハイを買い、普段から持ち歩いているペットボトルカバーをかける。無論、街人に「あらヤダ、あの人お酒飲んでるわ」と不快な思いをさせないため。ひいては酒の地位下落阻止のための、酒飲みとしての精一杯の気づかいだ。よし、出発。

 日比谷公園から皇居外苑沿いを、ちびちびとチューハイを飲みながらゆっくりと歩く。このあたりはひとつひとつの建物のスケールが大きく、行き交う人々もみな神妙な顔つきで歩いていて、もちろん酒を飲みながら歩いている輩などいない。街全体が自分とはまったく接点がなさそうなところが楽しい。真っ白なウエディングドレスを着た女性がビル群をバックに何やら撮影をしている。非日常の世界。あぁ、酒がうまい。

 皇居のお堀に白鳥が1羽浮かんでいる。え、皇居のお堀って白鳥いるんだ!? しばしお堀沿いの東屋で、優雅に毛づくろいする白鳥を眺めながら飲む。お堀と逆側を見れば、威風堂々たる東京駅舎。なんなんだこの状況。なんなんだ東京。

 再び歩きだす。首都高を超えると神田エリア。とたんに景色が変わり、自分のような場末者としては、やっぱりこういう風景の中にいるほうが居心地がいい。とっくに缶チューハイはなく、どこかで酒を補給するかとスマホで地図を見ると、進行方向に「藤田酒店」という酒屋があって、角打ち営業もしているらしい。神田は好きな店も多くてよく飲みにくる街だけど、ここは知らなかったな。行くしかない。

 店の前に到着。外観はものすごく歴史のありそうな酒屋だが、入り口すぐにカウンターがあり、かなり奥にまで飲めるスペースが広がっていて、もはや立ち飲み屋だ。たまらなすぎる。けれども5時オープンらしく、まだ15分くらい時間がある。しかたない。さっき通りすぎて気になった店で、軽く飲みながら待つか。酒ばっか。

 気になっていたのは、「ソウル市場」という店。飾り気のない韓国食材屋といった佇まいだが、食事もできれば酒も飲めるよう。1階のレジ前が狭いイートインスペースになっていて、ぐるりとカウンターがあって椅子が5つ。2階にも席があるらしいが、ちょっと1杯寄りたかっただけなのでここで飲ませてもらおう。昼から営業していて、午後7時までがハッピーアワー。長いな、ハッピーな時間。通常500円の生ビールが300円とのことで、それにする。

 あらためてメニューを見るとかなり品数豊富で、一品料理はもちろん、焼肉まである。その中から、軽くつまめそうな「とうふキムチ」(500円)というのを頼んでみることにした。しばらくしてとうふキムチが到着。すると、これが予想外にすごい。丸々一丁ぶんの絹ごし豆腐の上に、豚ばら肉とキムチを炒めたものがどっさり乗っていて、さらに店オリジナルと思われる焼肉風のタレがたっぷりかかっている。まずは肉キムチだけをつまんでみると、甘辛くて香ばしくて、そりゃ~もううまい。豆腐を崩し、タレもたっぷり絡めて食べてみる。はは、最高。生ビールに合いすぎる! しかしこれ、軽い夕飯一食ぶんくらいあるぞ。ビールは一瞬で消え、チューハイを追加。これもハッピーアワーのため200円で、締めてちょうど1000円。めちゃくちゃいい店だし、なんかいろんな人に教えてあげたいメニューだったな。ソウル市場のとうふキムチ。

 藤田酒店に戻ってみると、よし、営業中。カウンターに陣どり、店内をぐるりと眺めてシステムを把握。角打ちらしく乾き物も揃ってるけど、手作りのつまみもいろいろあるようで、酒飲みのツボをピンポイントに突いてくるラインナップが心憎い。

 日替わりメニューの中から「牛肉とれんこんの辛みこんにゃく和え」と、菊正宗のカップ樽酒を注文。合わせて720円。小皿に真っ黒く色づいた牛肉、レンコン、コンニャク。酒飲み仕様の塩辛い味つけで、樽酒と合わせると泣くほどうまい。

 ちびりちびりと幸せを噛みしめつつ味わって、店を出た。さて、再び鶯谷に向けて歩き出すか! なんてことには、もちろんならない。もうしっかりと酔っている。とってもめんどくさい。次の予定までまだ時間はあるから、漫画喫茶でも探してひと眠りするかな。

パリッコとスズキナオの共著『“よむ”お酒』が11/17に発売! 酒の可能性追求ユニット「酒の穴」を組むふたりの、エッセイと対談をたっぷり収録。

■パリッコ 酒場ライター。著書に『酒場っ子』『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』、スズキナオ氏との共著に『酒の穴』『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』。「晩酌ほろ酔いクッキング」(漫画ゴラク)「今日は早退します!」(東京ウォーカー)他、連載も多数。TV東京「音流~ONRYU~ 酒場サーキット」出演中。