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【BOOK】スピード化する社会で考える習慣を損なった現代人 歯止めなく幼児性を露出した高齢者 内田樹さん『サル化する世界』 (1/2ページ)

 新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)が、日本社会の弱点を浮き彫りにしている。「いまさえよければ、自分さえよければそれでいいという人たちの増殖」は、人の「サル化」が急速に進んでいるからだ。そう指摘する思想家・内田樹氏の最新刊に注目が集まっている。劣化した現代社会への処方箋はあるのだろうか?(文・たからしげる)

 --タイトルに「サル化」とあって、一瞬どきっとさせられました

 「朝三暮四(ちょうさんぼし)のサルは、いま腹一杯になるなら未来の自分が飢えることを気にしません。過去から未来にわたる広がりのある時間の流れの中に身を置いて、いまここでなすべきことを思量するという習慣を失った現代人の傾向を、サル化と呼んだのです」

 --どのような動機から、本書は生まれたのでしょうか

 「素材の多くは、ブログ記事と他の媒体にすでに発表したものです。文藝春秋の山本浩貴さんが、その素材を料理して作ってくれた本ですので、僕の側に積極的な動機があったわけではありません。ただ、山本さんが本を作ろうと思ったきっかけになったのは、ブログに上げた〈サル化する世界〉というタイトルのインパクトが強かったせいみたいです」

 --いま、日本の教育界が揺れていますね

 「何よりも、子どもたちがゆっくりと自分のペースで成熟できるように、親も教師も浮足立たないことでしょう。教育の要諦(ようてい)は忍耐と楽観です。周りが前のめりになって子どもに適性や自分らしさを押し付けるせいで、子どもたちは小さく固まって、息が浅くなっています」

 --日本人の歴史的・精神的変化ですが、たとえば100年前と比べたら

 「最も変わったのは基幹産業が農業から製造業へ、そしてさらに高次の産業に遷移したことです。価値あるものを創造するに要する時間が、どんどん短縮されてきた。100年前は、植物的時間の中で人々は生きていました。いまの株取引は、マイクロセコンド単位で行われます。それが広がりのある時間の中で、ものを考える習慣を損なったのだと思います」

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