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ヤン・ヨンヒ

自分の言葉で拓く勇気を(7/6)

 ヤン・ヨンヒ 梁英姫。映画監督。1964年11月11日、大阪市生まれの42歳。米ニュースクール大学大学院コミュニケーション学部メディア研究科修士号取得。95年からドキュメンタリーを主体とした作品を発表。タイ、バングラデシュ、中国などアジアを中心とした様々な国でも映像取材を続ける。2005年、初監督作「ディア・ピョンヤン」を発表。
ヤン・ヨンヒ

【「家族」を通じ“祖国”を活写】

 昨夏公開のドキュメンタリー映画「ディア・ピョンヤン」(別項、8日にDVD発売)で、在日朝鮮人一世の総連幹部として頑固なまでに“母国”に忠誠を誓う父親(アボジ)と、その取り巻く家族の姿を描いた。

 父親は帰国事業で、大阪生まれの3人の息子を1970年代に北朝鮮に送り出した。当時6歳だった彼女にとって、今もピョンヤンに暮らす兄たちと離れたことがずっとトラウマであり喪失感であった。そのことも、「家族」というフィルターを通して、あの国を描いたことにつながる。

 「完成まで10年間カメラを回しましたが、ずっと平均台の上を歩いているような感じでしたね。何を描いても、難癖をつけられたり、迷惑をかけることになるかもしれない。そのときに謝っても遅い…。でも、自分はやりたいんだ、と。ドラマの世界なら作品が終われば別の世界ですが、ドキュメンタリーは映画が終わっても、兄たちはその続きを生きなければならないんです」

 撮影したテープは当局の検閲を受けているが、作品の製作は許可を得たものではない。

 「最近は、西側からも許可を得たドキュメンタリーが出ていますが、話している人たちは、何をしゃべっていいか、まずいかが分かった前提で出ています。私のは家族の日常をとらえた作品ですが、その中で風景のように映っているだけでも彼らにはリスクがあることなんです」

 映画が兄や縁者に被害を与えないかという迷いの中でも、“監督のエゴ”を貫き、作品は内外で高い評価を得た。

 「昨年、ベルリンに作品を持って行き、現地で“世界でも有名な家族になることが守ることになるよ”と言われたんです。親や家族を売り物にしている、と言われますが、どうせなら売れっ子になってもらおうと思いまして(笑)」

【阿久悠氏に取材し新作も】

 心配していた兄から正月に届いた年賀状には、「映画監督になったことを喜んでいる」とあった。「読んでほっとしました。兄たちに迷惑をかけている、という気持ちがありましたから…」

 父は総連の専従、自身は大学を卒業するまでずっと民族教育を受ける環境にあったが、中学生のころから演劇にひかれ、「朝鮮大学校も東京で芝居を見られる、と思って入ったんですが、あそこは朝鮮学校の教員を養成するところだ、と入学して初めて知ってびっくりしました」という。

 学生全員が寄宿生活で、24時間を管理され、芝居を見に行くにも許可が必要。「4年だからがまんできたんですよ。兄たちにはその期限がないんですよね。兄たちはどこで折り合いをつけているのか、とずっと思っていました」。かつての学友たちの中には、今も母国、総連を信じて働いている人も多い。

 「父を含めた在日一世の頑なな考え方や言葉には、そうならざるを得ない理由や歴史があると思います。でも、彼らの意思を受け継ぐからと言って、今の時代を生きる二世、三世が親の世代と同じ言葉を唱える事には疑問を感じます。私達が生きていく時代をしっかり見つめ、自分たちの言葉で新しいものを作ろうとする勇気が必要なんじゃないでしょうか。それは決して一世たちを裏切ることにはならないと思います」

 映画の中では、アボジに「結婚せい! でも、日本人もアメリカ人もダメや!」と言われる。

 「20代の時に、在日の人と短い結婚生活がありました。私たちの中には、在日だから分かり合えるという人もいますが、私は一人ひとりが別だ、と思うんです。同じ境遇の人じゃないとうまくいかない、ということはないですよ。私がいい証拠(笑)。今も、募集中ですよ」

 今、70−80年代の日本の歌謡曲を題材にしたドキュメンタリーを製作中。ヒットメーカーの阿久悠氏に取材している。

【DVDを発売「ディア・ピョンヤン」】

 在日二世のヤン監督が、朝鮮総連幹部の父や母に密着。両親はなぜ、70年代に3人の兄を北に帰国させたのか。ピョンヤンに暮らす兄たちの姿もカメラはとらえ、家族と葛藤する姿をレンズは追いかける。ベルリン国際映画祭・最優秀アジア映画賞、サンダンス映画祭審査員特別賞など受賞。本編1時間47分、「ベルリン滞在記」など特典映像も。発売元・デックスエンタテインメント。4935円。

ペン・谷内誠
カメラ・小松洋