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佐藤二朗

不安定の妙(4/3)

 さとう・じろう 1969年5月7日生まれ。38歳。愛知県出身。信州大学卒。96年から劇団「ちからわざ」主宰。映画「ピンポン」「蝉しぐれ」「スウィングガールズ」、ドラマ「人間の証明」「夜王」「電車男」など140本以上の作品に出演。ドラマ「ケータイ刑事銭形シリーズ」などの脚本も多く手がけている。4月スタートの日本テレビ「ごくせん3」にレギュラー出演。「memo」は渋谷シネ・アミューズで公開中。
佐藤二朗

【突然浮かんだ言葉を書かずにいられない】

 手の汚れが気になり、何回も手を洗う。家の鍵をかけ忘れたのではないか、と何度も確認しに戻る−−「強迫性障害」の症状の一種だが、こんな症状もあることを初めて知った。何の脈絡もない言葉が頭に浮かび、それをメモに書き留めなければ、そこから先に進めないのだという。

 「最初にやったのは小学校高学年の時。テストの答案用紙にメモしちゃってね。書いた言葉は鉛筆で消して提出するんだけど、真っ黒な答案用紙を見た先生に『何だこれ?』って言われる。テストの最中に他のことをメモるって、ありえないじゃないですか。俺は異常なんだ、とショックでしたね」

【公開中「memo」で初の監督&脚本】

 どもったり、イラついた感じで言葉を繰り返したり、いきなりコミカルになったり…。そんな独特な芝居で、ここ最近ドラマや映画に引っ張りだこだが、意図せずに演じている部分もあるという。

 「台本通り(に演じる)というのが役者の本文なんですが、アドリブでいい、なんて時に、いろいろな言葉が口をついて出てくるんですよ。それが評価されることも多いんです」

 それが“症状”のひとつなのかどうかは分からない。「でも、そんな“佐藤二朗印”の言葉を、強迫性障害と二本柱で撮りたいと前々から思っていた」。その思いが人づてに伝わり、協力者も現れ、初の監督兼脚本映画「memo」が完成した。

 主人公は女子高生。「カベ向き」「泣いてるのは別の人」「野球」…。小テストの最中に突然それらの言葉が浮かび、答案用紙にメモせずにはいられない。他の登場人物も、イラついたりコミカルだったり、それぞれが少しずつ「佐藤二朗」を反映している。

 映画全体を覆うのは、奇妙な“不安定感”。「佐藤二朗」が好きか嫌いかで評価は極端に分かれるだろう。

 症状は、長時間のプレッシャーを感じる試験や芝居の本番前などに出てくる。「テレビドラマなら撮影の合間にメモできますが、2時間出ずっぱりの舞台の時は太ももに爪で書いたりしていました。いまは仕事に支障ないぐらいに治まっているけれど、メモはつねに持っています」

 大学を卒業したころは、役者をやって監督までやるとは思ってもみなかった。役者は趣味でやればいい、営業マンになろうと新卒でリクルートに入社した。が、「入社式のイケイケの乗りに疲れ果て、その日にカモメの社章を人事部長に返した」。「リクルート35年の歴史の中で入社日と退社日が一緒なのは君が初めてだ」と言われたという。

 その後、塾講師や求人広告の営業マンなどで食うかたわら、文学座や劇団3〇〇(さんじゅうまる)の養成所にも入ったが、いずれも退団。強迫性障害が深刻な時期とも重なっていた。

 それでも役者の夢捨てきれず、劇団「ちからわざ」を自ら立ち上げたのが27歳の時。その舞台を偶然見た映画監督の堤幸彦氏に認められ、ドラマ「ブラック・ジャックII」に医者役で出演したのが転機となった。

【鬼気迫る演技】

 「memo」では、“手洗い”の症状を持つ、主人公の叔父役で出演もしている。

 芝居だとは分かっていても、その演技には鬼気迫るものがある。辛くはないのだろうか…そんな思いが頭をよぎる。

 「この映画のキャッチコピーは『闘わないよ』なんですけどね。本当は『闘おうよ』と言いたいんです。人生は戦いだし、頑張らなきゃいかんていう気持ちは必要ですよね。僕自身は闘ってきたのかな? どうでしょうね。ただ、僕はこの病気のおかげで、こうして映画も撮れました」

 “共存共栄”の道を見いだしたようだ。