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石黒賢

絵になるパパ(6/19)

 いしぐろ・けん 1966年1月31日生まれ、42歳。東京都出身。日本プロテニス界のパイオニアとして活躍した石黒修氏の次男。83年、テレビドラマ「青が散る」で主演デビュー。以後、テレビドラマ、映画などの出演作多数。フジテレビ系「CHANGE」に出演中。

 23日から始まる英ウィンブルドンテニスを生中継するWOWOWの番組にスペシャルナビゲーターとして出演。「テニスはネットをはさんだ格闘技。瞬発力、持久力、戦略を融合させて戦う。ウィンブルドンならではの芝のコートや、ゆるめに張られたネットがどんなドラマを生み出すかお伝えしたい」と意気込んでいる。WOWOWではウィンブルドンをはじめ、グランドスラム4大会を完全生中継する。
石黒賢

【子供に読み聞かせ】

 小学校低学年の息子が2人。「いい子に育った」としみじみ思う。幼稚園に入る前から絵本の読み聞かせをしてきた。人から勧められ、「読み聞かせはいいみたい」と夫人に伝えたら、絵本を大量に集めてきて「ハイ、あなたは俳優さんだから、こういうこともお仕事」とテーブルの上にドサッ。面食らったが、後には引けない。

 そもそも、父親とはええカッコしいなものだ。子供が寝る前、「じゃあ読んであげようか」と絵本を広げると、両脇にかけ寄ってくる。気分がいい。それに、子供たちはくだらないことでもよく笑う。

【言葉紡ぎ出す作業は俳優業にプラス】

 読み進むうち、パッと横を向く。「次はどうなるんだろう」と、子供たちの目が期待に輝く。ふだんも、ふとした拍子に「ねぇ、パパ。あれってさあ、あの後どうなったんだろうね」なんて言ってくれる。『あっ、ちょっと心に響いてきたのかな』と実感する瞬間だ。

 ニューヨークへ出かけたときのこと。子供たちへのおみやげを買おうと入った書店で「スケアリー(怖い)」というタイトルの絵本を手にした。つい引き込まれていく話の展開。朝起きて顔がカバだったらスケアリー、知らない人についていくのはスケアリー、ウソをつくのはスケアリー、そして、いつか大人になると思うとスケアリー…。哲学的な内容に魅了され、翻訳に挑戦した。

 直訳してみた。味気ないこと、このうえない。名作絵本に何かヒントはないかと片っ端から読んでみた。松谷みよ子さんのモモちゃんシリーズ、「キュリアス・ジョージ」、「ぐりとぐら」。それらを音読してみた。メロディアスで耳になじむ「じょきじょき」「ぱちぱち」といった擬音語が多用されていることに気づいた。

 スケアリーの草稿は、まず子供たちに読んで聞かせ、つまらない顔をした部分はすぐに手直し。地道な作業の末、訳書を出したのが2005年のこと。言葉を自分の中から紡ぎ出すという作業は、表現力が命の俳優業にもプラスだった。

【窮屈だったテニスプレーヤーの父との時間】

 自分が子供のころを振り返る。父に絵本を読んでもらった記憶はない。どこの家でもオヤジは無口な時代だった。父はプロテニスの名選手、修さん。幼いころは父と2人で過ごす時間がものすごく窮屈だった。四角い空気が流れ、何を話していいか分からない。

 「おい、どうなんだよ」

 「ハイ、やってます」

 って、何だかよく分からない会話である。

 父とのテニスも楽しくなかった。絶対に手加減してくれない。対戦すれば徹底的にたたきのめされる。でも、大人になってから「あれは当たり前」と分かった。父は全力だった。全力だからこそプロにもなり、日本の頂点にも立った。なにより、父として恥ずかしい姿は見せられないというプライドもあったのだろう。そもそも、父親とはええカッコしいなものだから。

 多摩川の土手を走っていると、向こうから修さんが走ってくる。71歳。いまでも現役として大会に出場し、トレーニングは欠かさない。すれ違いざまに言葉を交わした。

 「何やってるんだ、お前」

 「何って、走っているんですよ」

 「そうか」

 昔と変わらぬ、何だかよく分からない会話。でもそこには、かつての四角い空気は流れていなかった。