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今森光彦

撮り続けた里山30年の記録(8/20)

 いまもり・みつひこ 1954年8月6日、滋賀県大津市生まれ、55歳。写真家。琵琶湖を望む滋賀の里山にアトリエを構え、里山を通じて自然と人とのかかわりを追い続けている。大学卒業後、独学で写真技術を学び80年からフリーランス。里山を追う一方、熱帯雨林から砂漠まで、世界の辺境地を広く取材している。94年、第42回産経児童出版文化賞大賞受賞、95年には「里山物語」「世界昆虫記」で第20回木村伊兵衛賞、今年は「昆虫 4億円の旅」で第28回土門拳賞を受賞した。写真と並ぶライフワークである「切り紙」を紹介した『今森光彦のやさしい切り紙』(角川SSコミュニケーションズ)も発売中。
 映画「映像詩 里山」は22日から東京・新宿ピカデリーなどで全国順次公開。
今森光彦

【日本の原風景 愛し憂う】

 「里山」。畑、水田のそばに広がる雑木林といった風景がぱっと思い浮かぶだろうか。日本の原風景と言っても大げさではないだろう。今では多くの人が当たり前に使っているこの言葉に魂を吹き込んだ。1992年、「里山物語」と題した雑誌連載を始めたのだ。

 「あのころは『里山』という言葉がなかった。そこで、『人と生きものが共存する日本古来の農業環境』と定義付けしたんです。そういう意味では造語。学術用語で使われていた里山は、雑木林だけのことだったから」

 日本古来の、のどかな農環境。山があって、人家があって田んぼが広がって、誰が見ても気持ちがいい空間が里山なんだというこの考えは提唱者がびっくりするほど、あっという間に定着。連載を始めてまもなく、全国から共感の投書が殺到したという。

 写真家として30年以上、故郷・滋賀県に拠点を置き、写真や映像で里山を記録してきた。根っからの自然派と思いきや、「大津の街中で育ったので、自然とはほど遠い環境でしたね」。ただ、もともと昆虫は大好き。昆虫を記録する手段として写真を学び、撮る中で自然に目が向いていった。

【人手入らず荒れ果てて…】

 里山を追い続けた作品にNHKのプロデューサーが魅せられ、まず98年にハイビジョンで第1弾が放送された。計3回の里山シリーズはテレビ界最高峰、イタリア賞で最優秀賞に輝いた。そのうち昨年放送された第3弾「ハイビジョン特集 里山 いのち萌ゆる森〜今森光彦と見つめる雑木林〜」を再編集したものが今回、映画館で公開される。

 「ストーリーは単純。里山に住む農家の人が木を切って、しいたけを栽培する営み。それだけのことだけど、僕が体験した30年のライフワークが詰まっている」

 単純という言葉にだまされてはいけない。テレビで見た人も多いだろうが、移ろいゆく四季それぞれの景色の奥深さ。その堂々たる姿から“やまおやじ”や“長老”と名付けられた雑木林の木や植物、動物、昆虫たちの思いもつかない素顔、驚異的な映像がてんこ盛りだ。

 たとえば春。スミレの実が開き、はじけ飛んだ種をアリが運ぶ映像。スミレの種がこぼれるのはたった1週間。もたもたしていると種はなくなってしまう。広大な里山の隅々まで知っているからこそ撮れる映像だ。

 これだけ魅力的な環境なのに、日本の里山は悪くなる一方だと胸を痛めている。

 「立派に見える雑木林なのに『カブトムシがいない』という声をよく聞くんですよ。それは農家が雑木林に手を加えなくなったから。木を切れば、その下に腐葉土ができてカブトムシが育つ。そういう仕組みを知らない人が意外に多い」

 外国産の安い農産物のおかげで高コストの国産農産物は売れない。高齢化社会で農業の担い手も減っている。さまざまな原因で人が手入れをしなくなると、里山は荒れ果てていく。

 「国産のしいたけを食べることって、それだけで環境への貢献度が高いんですよ。値段はちょっと高いけれど自然環境のことを考えて買おうか、という意識が必要だし、農家の人への支援も必要なんです」

 「減反なんて、まさにネック。田んぼは1年休むとガクッとダメになるんですよ。役人は(隠れて)コメを作っていないだろうな、と見にきますからね。行政がかかわると摩訶不思議なことだらけ。この手の話なら何時間でも話せますよ」

 残り少ない夏休み。映像で里山を見るだけでなく、実際に足を運んでみませんか。それがこの情熱的な写真家の願いである。