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【安珠】写真家・安珠、命が見える“一瞬の永遠”を追い求める

2012.10.31


安珠さん【拡大】

 2年ほど前、日中友好映画祭を企画している耿忠(こうちゅう)さんに会った際、中国湖南省北西部にある世界自然遺産「張家界(ちょうかかい)」の観光大使でもある彼女から「安珠さんなら張家界のいい写真を撮っていただけるんじゃないか」と撮影の依頼があり、時間が空いた昨年、現地に出向いた。

 張家界は中国で初めて国立森林公園に指定され、1992年に同公園を含む武陵源自然風景区が世界自然遺産に登録された。ジェームズ・キャメロン監督の3D映画「アバター」の空中島の舞台になったことで世界的に知られ、いまや五つ星ホテルが4つもある一大観光地だという。

 中国の都会には何度か足を運んだことがあるが、奇岩奇石の山々からなる大自然に向き合うのは初めて。海抜1300メートルの不動に見える風景を目の当たりにし、ここが3億8000年前は海底だったと聞くと、生と死を繰り返し果てしなく移り変わる時間の重みを感じないではいられなかった。

 張家界を訪れたのは、人生で大切な人と別れ、東日本大震災で心が揺れ動いていた時でもあった。ふと、「仙人の千年、蜻蛉(かげろう)の一時」という言葉が浮かんだ。長くも短くも同じ一生。蜻蛉の一時もこの移り変わる風景の中にあるんだと実感した。そして、その幻想的な景色の美しさに恐れさえ感じ、ここで時の変転の一片を撮ろうと決めた。

 1回につき半月以上滞在し、計4回往復したが、「まだ全然撮りきれていない」。それでも、一瞬の写真の中にある永遠をぜひ見てもらいたいと考え、11月1日から東京・銀座を皮切りに、札幌、仙台、大阪・梅田の各キヤノンギャラリーで写真展を開くことにした。「来年また訪ねて、十分納得したうえで写真集にまとめたい」という。

 「時間」を意識するようになったのは10歳の時。生死をさまよう大病を患い、このまま白い病院の中に消えていくんだと思った。四角く切り取られた窓の外だけで時間が流れていて、私が死んでも流れていく、私には止められないんだと思うと切なくさえなった。奇跡的に一命を取りとめたものの、消えるはずの命がこのまま生きていていいのか。生きる意味があるんだろうか。そんな思いを抱えながら大人になっていった。

 大学時代にスカウトされてモデルになった。初めての撮影で「こんな感じだよ」と撮ったばかりの写真を手のひらに乗せられた時、「今の私が切り取られている。面白い、って思った」。一瞬を撮った紙切れが自分の命より長らえるんだ。“一瞬の永遠”がここにある。写真を始めよう。一眼レフを買い、押し入れに暗室も作って、好きなものを撮っていった。モデルの仕事は写真を知るための格好の学校になった。

 ファッションショーのために来日した仏のファッションデザイナー、ユベール・ド・ジバンシィと女優のオードリー・ヘプバーンに気に入られ渡仏。パリでもカメラを片手にモデルの仕事をしている時、ファッションデザイナーの中野裕通氏から「うちのポスターを撮ってみないか」と勧められた。モデルは当時10歳の子役だった高橋かおりに決め、同じ10歳で大病した自分の過去をレンズの向こうに見るように、東京とパリを往復しながら撮り続けた。

 高橋との仕事を通して、自分が“今”楽しんで撮影していることに気づいた。「生きる意味なんて分からなくたっていい。生きる意味があるからこそ、残され、ここにいるんだ」ということに目覚め、不可解なことにピントを合わせていってくれた写真機は鏡だと思った。パリから帰国した時は、もう自分の中でモデルを卒業していた。

 美少年と美少女を描いた「サーカスの少年」では、実際にキグレサーカスに“入団”して撮影。みんな夢を見ることを忘れているんじゃないかという思いは黒田勇樹をモデルにした写真小説「星をめぐる少年」を生んだ。その後も黒田少年を撮り続ける中で、動くアリをじっと見て跡をたどっていくくらい「時間」が自分のものであった時を思い出した。自分の時間を取り戻し、「一瞬の永遠を旅しながら生きていきたい」と強く思った。

 旅は安珠を想定外の場所へと誘い、写真機を通して新しい安珠を表現させてきた。まだ、旅の途中。果てしなく続く−。(ペン・大倉明、カメラ・荻窪佳)

 ■あんじゅ 東京生まれ。大学在学中の1980年に丸井のCMでスカウトされモデルデビュー。83年、渡仏。5年後に帰国し、写真家に転身。主な作品に「サーカスの少年」(モデルは大沢健、鷲尾いさ子)、「果歩」(南果歩)、「少女の行方」(高橋かおり)、「星をめぐる少年」(永瀬正敏、黒田勇樹)、「ANBIENT−M」(とよた真帆)、「少女日記」(宮崎あおい)、「THE OKINA 3/3」(奥菜恵)、「ナイン・スリークォーターRio」などの写真集、写真小説のほか、映画「失楽園」などのポスター、沢田研二の「そっとくちづけを」の作詞など幅広く活動。写真展「仙人の千年、蜻蛉の一時」の問い合わせはキヤノンマーケティングジャパン電話03・3542・1831

 

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