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【中江有里】児玉清さんから刺激を受けて作家デビュー 2作目の小説を上梓

2013.02.28


中江有里【拡大】

 アベノミクスで株高円安。数値だけは景気がいい。でも、すぐに暮らしが楽になるはずもなく、“じっと手を見る”お父さんも多いだろうな。そんな人たちに、女優であり作家・脚本家でもあるこの人の物語を送りたい。

 「人生をやり直すのに年齢は関係ない、という思いがあったんです」

 新著『ティンホイッスル』に登場するのは、再起をかける女優と、仕事に情熱を失いかけている担当女性マネジャー、そして、偶然2人と出会ったロケ地で暮らす元女優。新たな道を模索しようとする3人の人生は出会いやトラブルなど、さまざまな糸で紡がれる。

 30代のマネジャーと40代の女優、20代後半の元女優。世代は違うが、元女優の小学生の娘が吹くティンホイッスルという縦笛が人生の転機をうながす心象的な小道具となる。3人の姿は、“アラカン”の記者にも胸打つものがあった。

      ◇

 10年前、女優兼脚本家となった。期待を込めて取り組もうとしていた映画の企画が急にキャンセルになり、ふいに2カ月間という時間ができた時だ。

 「仕事を失った喪失感を埋めるために、自分で仕事を作り出そうと思ったんです。どういう役柄をやりたいか、自分で書いてみたらどうかと思いました。プレゼンされるのを待つのではなく、自分からプレゼンするという逆の発想。それに、書くことはもともと自分が持っていた夢でもあったんです」

 テレビドラマが好きだった子供のころ、脚本家という仕事を知った。親類が応募したアイドルコンテストに合格して女優の道を歩き始めたが、ドラマが身近になった分、脚本家への憧れはさらに募っていた。

 「ちょうどNHKの大阪放送局がラジオドラマの脚本を募集するコンテストをやっていたんです。大阪出身というのは武器になるなと思いました。ラジオドラマに出演したこともありますし、リスナーでもありましたからね」

 脚本の書き方は独学だったが、「BKラジオドラマ脚本賞」に応募した「納豆ウドン」は見事入選を果たし、放送された。

 「ラジオは映像がなく、リスナーが想像力を働かせるという点で活字の世界に近いんです。受賞で扉は開きましたが、物書きの世界に自分が入っていいのかなという怖れもありました」

 その「納豆ウドン」を小説化したことで、小説執筆への自信も得た。次第に文芸の深い森に歩を進めるなかで、大きな出会いがあった。

 俳優・児玉清さんとの出会いである。芸能界随一の読書家だった児玉さんが司会を務めていたNHKBS2(当時)の「週刊ブックレビュー」司会者の1人に抜擢されたのだ。2004年のことである。

 「児玉さんとは5年ほどご一緒しました。灯台のような方で、荒れた暗い海を航行していても、あそこに灯台があることを思えば、この海も行くことができるというような…」

 大きな刺激を受けながら、2006年に『結婚写真』(NHK出版、現在は小学館文庫)で作家デビュー。2作目の『ティンホイッスル』を書いたきっかけも、児玉さんに「あなたは本当は何をやりたいんですか?」と問われたから。自分は小説を書かなければならない、と思い至ったという。

 「今回の作品に込めた、人生をやり直すのに年齢は関係ないという思いは、実は児玉さんが『人間、50歳から努力した者が変わる』とおっしゃったことがきっかけなんです。児玉さんは画家の中川一政さんから聞いたそうですが、人間は50歳になると先が見えて努力しなくなる。しかし、そこから努力した者だけが変わる、って。とても良い言葉だと思いました」

 胸にズキッとこたえる。アラカンになり、何も努力していない自分に気がつく…。

 「作品の中に出てくる女性たちも、自分の意志だけではどうにもならない状況のなかで、何かを決断したりもう一度始めることを恐れない。そういうことを書いてみたいと思いました。これは女性だとか男性だとか年齢も関係ないことだと思います。私はまだ50歳じゃないけれど、児玉さんの言葉は忘れないでいたいですね」

 次作については未定だが、書評や読書関連のイベント出演依頼は多く、本とともに過ごす日々は続く。

 「児玉さんのお仕事をいくつか引き継がせてもらったりしています。児玉さんに恥ずかしくない仕事をしたいですね。読書文化をこれ以上衰退させないように私なりに運動していきたいです」

 (ペン・竹縄昌 カメラ・高橋朋彦)

 ■なかえ・ゆり 1973年12月26日生まれ、39歳。大阪市出身。89年、芸能界デビュー。NHK朝の連続テレビ小説「走らんか」、大河ドラマなどに出演。小説2作目の『ティンホイッスル』は2012年から「デジタル野性時代」に連載。3章までを連載し、残りを書き下ろしで加え、今年1月、角川書店から出版した。現在、新聞や雑誌に読書エッセーなどを連載中。年間300冊以上は読む読書家。

 

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