安倍内閣が目指す「1億総活躍社会」のモデルのような人である。
普通の作家なら、そろそろ筆をおく年代の75歳で『信長の棺』でデビューし、『秀吉の枷』『明智左馬助の恋』の本能寺3部作をはじめ、一昨年刊行の『利休の闇』まで、およそ10年間に10作の話題作をものにしてきた。
特に処女作『信長の棺』は、本能寺の変の背後に秀吉の謀略があり、秘密の地下通路から脱出しようとした信長の前途を封鎖させ窒息死させたとし、遺骸が見つからなかったのは、駆けつけた阿弥陀寺の清玉上人が隠したからだ−との大胆な新説を提示、歴史好きを興奮させた。
「『信長の棺』は単行本と文庫を合わせて、250万部くらい売れた」というから大ベストセラーだ。
あえてまた普通の…と言うなら、多くはこの一作で満足し、後は悠々自適という選択になる。が、前述のように次々と大作に挑んできた。そのパワーや恐るべし、である。
昭和5(1930)年に生まれ、東大法学部に進むが、もともと文学に関心が強かった。
内外の文学書を乱読した時期もあったが、石原慎太郎の『太陽の季節』が芥川賞を受賞したころから、急激に文学熱から冷めたという。いまも純文学について批評するその舌鋒は鋭い。「あまりにも子供っぽい」「社会に役立たない」と。
「賞のない作家」(=仕様のない作家)と自らさげすんでみせるが、その言葉の裏には、純文学のみならず文壇への批判の念が込められている。同時に、俺は俺の道を行くのだという強い自負心がうかがえる。