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緒形拳さん「不惜身命」貫いた最後の演技 肝臓のことは誰にも言うなと周囲に口止め

★緒形拳(26)

 テレビドラマ『やすらぎの郷』が終了して寂しいという人が多いようです。私もそのひとりですが、倉本聰作品の中では2008年放送の『風のガーデン』も大好きです。

 医療ドラマ数あれど外科や救急医療を舞台にしたものが多い中、『風のガーデン』は緩和ケアというドラマにしづらいテーマに焦点を当てながら父と息子の葛藤を描いた傑作です。本作で、孤高の在宅医を演じたのが緒形拳さんでした。

 このドラマは2008年3月から北海道・富良野で撮影が始まり、すべてを撮り終えたのが同年9月。第1回放送が10月9日。緒形さんはその4日前、10月5日に亡くなりました。71歳でした。急死という報道がありましたが、実は緒形さんは末期の肝臓がんと闘っておられました。

 亡くなる前日の夕方に腹部の痛みを訴え、自宅から病院に搬送。がんが破裂したのです。ご家族と親友の俳優、津川雅彦さんが見守る中、入院後わずか1日半で旅立ったのです。

 緒形さんは2000年頃から慢性肝炎を患っていました。その後、肝硬変、肝臓がんと病状が悪い方に進行していきましたが、外科的治療を拒否したそうです。

 肝臓がんの原因の約9割はウイルス感染といわれています。C型(HCV)やB型(HBV)ウイルスの持続感染から慢性肝炎を起こし、肝硬変へと進み、肝臓がんになると考えられています。

 緒形さんは、肝臓のことは誰にも言うなと周囲に口止めをしていたそうです。8年にもわたる闘病中、一度も長期入院はせずに俳優業に打ち込みました。

 肝臓がんは初期にはほとんど症状がなくても、進行とともに、おなかに圧迫感を覚えます。さらに食欲不振、全身倦怠(けんたい)感、体重の減少、微熱に加え、肝機能の低下とともに腹水、黄疸(おうだん)、赤い発疹を中心にクモが足を広げたように血管が広がるクモ状血管腫という症状も出てきます。

 緒形さんは2007年の秋頃から激しい腰痛に見舞われ、腰椎圧迫骨折と判明し、セメントで骨を固める手術を受けています。

 意外に知られていませんが、肝臓と骨は密接な関係にあります。肝硬変の人はたいてい骨粗鬆(こつそしょう)症もあるので、ちょっとした負荷で圧迫骨折を起こしやすいのです。

 末期がんの状態で挑んだ『風のガーデン』の撮影中は食事もままならない状態だったそうです。しかし、その辛ささえも武器にして、目が離せないほどの迫真の演技をされたように見えました。

 書が趣味だったという緒形さん。葬儀には「不惜身命」の書が貼られていたそうです。法華経が出典のこの言葉の意味は「死をもいとわない決意」。最後のドラマにかけた思いが伝わってきます。

 ■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。近著「薬のやめどき」「痛くない死に方」はいずれもベストセラー。関西国際大学客員教授。

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