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「すべて持ち越し」で終わった米朝首脳会談 結局は政治的パフォーマンス優先、拉致問題でも不吉な予感

 シンガポールで開かれた米朝首脳会談は「すべて持ち越し」で終わった。ドナルド・トランプ米大統領の「自画自賛」とは裏腹に、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、ほっと胸をなで下ろしているに違いない。

 両者が署名した共同声明は、トランプ氏が北朝鮮に「体制保証」を約束する一方、正恩氏は「朝鮮半島の非核化」の決意を確認した。そのうえで、新たな米朝関係や半島平和の構築、先の南北首脳会談が発表した板門店(パンムンジョム)宣言の確認、戦争捕虜遺骨の返還などをうたっている。

 肝心の非核化を達成する具体的な時期や方法には、何も触れていない。これまで両国が述べてきた基本方針を文書で確認しただけだ。まさに「拍子抜け」だった。

 トランプ氏は記者団に「非核化プロセスは非常に早く始まるだろう」と述べたが、それは期待にすぎない。正恩氏の言葉でも、約束でもない。

 こんな文書なら、まとめなかった方がよかった、とさえ思う。

 成果らしきものといえば、トランプ氏が会見で明らかにしたミサイルエンジン試験場の廃棄くらいだ。それも実は、もう不要になった施設なのかもしれない。

 トランプ氏はあれほど、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」にこだわりながら、なぜ、その文言さえ盛り込まずに合意したのか。会見では「科学的に時間がかかる」と説明したが、説得力はない。結局、見栄えのする政治的パフォーマンスを優先した形だ。

 不吉な予感は、拉致問題への対応にもにじんでいる。

 トランプ氏は「会談で拉致問題を提起した」と述べたが、正恩氏の反応は不明だ。北朝鮮は直前まで、国営メディアを通じて「拉致問題は解決済み」との姿勢を繰り返し、強調している。

 拉致問題は、他国民の平和と生命、安全を脅かしている点で本質的に核・ミサイル問題と同じだ。すなわち、正恩氏が改心して「いい子」になるつもりがない証拠である。これでは、非核化の言葉も信用できない。

 今回の声明が「板門店宣言」を確認した点も気になる。

 南北朝鮮が宣言に従って朝鮮戦争を年内にも終結し、将来の南北統一に踏み出せば、それは「赤い朝鮮半島」の誕生を意味する。そうなれば、在韓米軍の撤退も迫られるだろう。

 トランプ氏は「赤い朝鮮半島」も「在韓米軍撤退」も容認するつもりなのだろうか。

 それでも、今後に期待するとすれば、何が言えるか。トランプ氏は「核の脅威がなくなるまで、制裁を続ける」と言明した。正恩氏が制裁解除を目指すなら、自ら動かざるを得ない。「核兵器や核施設の申告」「国外搬出と廃棄の検証」という本番はそこから始まる。

 ただ、それでも「北朝鮮の申告を信用できるのか」という難問が待ち受けている。正恩氏は拉致問題について動くかどうか。安倍晋三政権は一段と難しい局面を迎える結果になった。

 ■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革推進会議委員などの公職も務める。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア-本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。最新刊に『ケント&幸洋の大放言!』(ビジネス社)がある。

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