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不合理な緊縮財政は人を殺す インフラ整備阻む「EU規律」、日本も金科玉条扱いは不要

 イタリアのジェノバで発生した高架橋崩落事故をきっかけに、「反緊縮財政」の可能性が浮上していると報じられた。日本の報道では「バラマキ」と批判的なトーンが多いが、緊縮財政がもたらす悲劇と比べてどちらが問題なのだろうか。

 イタリアのコンテ首相は既に2019年予算案の枠組みを固めているが、連立政権を構成する右派政党「同盟」を率いるサルビーニ副首相は、ジェノバの事故を受けて、安全対策への支出を妨げる欧州連合(EU)の財政規律に「従うことが理にかなうのか疑問が生じる」と不満を示したという。

 EUの財政規律とは、1993年11月発効のマーストリヒト条約(現リスボン条約)に定められた財政赤字の2つの基準である。具体的には(1)単年度の財政赤字が国内総生産(GDP)比3%以下(2)公的債務が同60%以下というものだ。基準の順守を加盟国に義務付けるとともに、加盟国の財政を監視することが取り決められた。

 この公的債務残高をGDP比60%以下とするのは、理論的にもおかしな話だ。まず、これでは赤字国債も建設国債も同じ扱いになってしまう。資産が残る建設国債は投資のための手段であり、経済成長には欠かせないものだ。この点を考慮すると、公的債務残高の基準を作るなら、建設国債を除いて考えるべきだろう。

 実は、EUに至るこれまでの発展の中で、各国の投資は欧州機関で行うという考え方があった。58年にローマ条約によって設立された欧州投資銀行(EIB)は、ルクセンブルクに本部があり、EU域内のインフレ整備などに融資している政策金融機関だ。EU各国が出資しているが、財政的にはEUと独立している。つまり、EIBが融資するインフラは、EIBが発行する債券で賄われ、自国で国債発行することなく整備できる仕組みだ。

 この仕組みがワークすれば、EU各国はインフラ整備のための建設国債を発行する必要はないのだが、実際にはあまりEIBは機能していない。EIBの総資産は5500億ユーロ(約71兆円)。EUのGDP15・3兆ユーロ(約2000兆円)の3・5%に過ぎず、とてもEU全域のインフラ投資を賄えるものではない。つまり、EU各国の建設国債振り替えの受け皿にはなれない。

 こうして、EUは健全なインフラ整備を行おうとしても財政規律で障害が出るようになっている。イタリアの事故で、今やその不満が噴き出しているとみたほうがいい。

 日本では、EUの財政規律を金科玉条のように扱い、その不合理性を指摘する論考はほとんどない。本コラムで繰り返しているように、日本では財政再建の必要性はかなり乏しく、不合理な緊縮財政がもたらす悲劇のほうが大きい。

 無駄なインフラ整備はダメだが、費用便益を精査した上でのインフラ整備は、財政規律と無関係だ。財政問題を理由として、躊躇(ちゅうちょ)してはいけない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

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