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ファーウェイCFO逮捕でバレてしまった「中国という国の本質」

 米中新冷戦は休戦どころか、一挙に抜き差しならない展開になってきた。中国の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の副会長兼最高財務責任者(CFO)、孟晩舟容疑者が逮捕された。

 中国側は当初、外務省報道官が「拘束理由を示さない逮捕は重大な人権侵害」と反発しただけだった。それ自体、新疆ウイグルやチベットでの人権弾圧を見れば「お前が言うな!」という話である。

 ところが、12月10日に事態は大きく動いた。カナダの元外交官で、民間シンクタンク「国際危機グループ」の北東アジア担当アドバイザー、マイケル・コブリグ氏が中国で身柄を拘束されたのだ。翌11日、ロイター通信が報じた。

 孟容疑者の事件との関連は明らかでないが、タイミングから見て「中国による報復」であるのは確実だ。中国外務省は、カナダの駐中国大使に即時釈放を要求し、応じなければ「厳しい結果になっても、カナダの責任」と報復を示唆していた。

 カナダ人を狙ったのは、孟容疑者の身柄が米国に移送される前に取り戻そうという魂胆だろう。中国は反転攻勢に出たつもりだろうが、私はこれで「中国という国の本質が世界中にバレた」とみる。

 中国がいくら、もっともらしいセリフを吐こうと、もう良識ある世界の人々は信用しない。「国際ルールを守らず、身勝手で、自分の言い分を押し通すためには、何でもやる」という「中国の正体」が、これ以上ないほど、鮮明になってしまった。

 孟容疑者が「政府を動かすほどの大物だった」ことも明らかになった。彼女は7つのパスポートを所持していた、と報じられている。そうだとすれば、ただの民間人ではない。国家の利益を代表する「政府公認のエージェント」だった可能性が高い。中国政府の慌てぶりが証拠だ。

 一方、カナダ人を拘束するような乱暴な報復は、十分に練り上げられた対応ではなかった可能性もある。周到に準備して仕掛けたのは米国であり、中国は受け身で対応しているにすぎない。しかも、貿易戦争はようやく「90日間の休戦」を勝ち取ったばかりだ。それなのに、今回のカナダ人拘束は、せっかくの休戦を台なしにしてしまうかもしれない。米国の農産品や工業製品の輸入拡大は、一体何だったのか、という話になりかねないのだ。

 私には、孟容疑者の逮捕があまりの衝撃だったために、「我を忘れて、緻密な戦略もなく報復に突っ走ってしまった」ように見える。米中新冷戦は、単なる貿易戦争から、人権と安全保障が絡んだ対立へと局面が変わってしまった。果たして、中国はそこまで計算していたかどうか。

 2010年9月の沖縄県・尖閣諸島沖中国漁船衝突事件が影響した可能性もある。船長逮捕に対して、中国が日本人会社員4人を拘束して報復すると、当時の菅直人政権は腰砕けになって船長を釈放してしまった。中国は「戦果」に味をしめたのだろうか。

 ドナルド・トランプ米大統領は、孟容疑者の逮捕をめぐって、貿易問題と絡めて米司法省に介入する可能性を示唆した。だが、事はそう簡単に運ばないだろう。

 これは、ファーウェイによる機密情報の窃盗と、米国の安全保障が絡んだ問題であるからだ。だからこそ、米国は日本や英国、オーストラリアなど同盟国に対し、ファーウェイと、中国通信機器大手「中興通訊(ZTE)」の製品の使用禁止を求めた。安倍晋三政権が同社製品を政府調達から締め出すのも当然だ。

 ■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務める。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア-本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。最新刊に『明日の日本を予測する技術』(講談社+α新書)がある。

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