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大の本好き・江夏豊氏が語る「我が人生の書棚」 (1/2ページ)

 阪神、南海、広島などで活躍した野球解説者の江夏豊氏は、「本は野球のボールと同じ」と語るほどの“本好き”だ。その江夏氏が、「我が人生の書棚」を語った。

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 昭和53年の広島時代、「野球のことを考えると寝付けない」と知り合いの人に言ったら、「じゃあ、本でも読めば」と渡してくれたのが松本清張氏の『点と線』と『眼の壁』。それが面白くて、以来本を読むことが好きになりました。今も枕元に本とタバコがないと眠れないタイプで、どんなに疲れていても夜眠る前に布団の中で寝転んで本を開き、2、3ページでも読みます。読むのは文庫本の小説がほとんどで、月に数冊から10冊程度ですかね。

 僕の本の読み方は作家主義と言うのか、気に入った作品と出合うと、その作家の本をすべて読み、場合によっては同じ作品を何回も繰り返し読むんです。

 最初にはまった作家が司馬遼太郎さんで、なかでも大好きなのが『燃えよ剣』。幕末維新の動乱の時代を、最後まで自分の意志を貫いて生きた新選組の土方歳三に、勝負の世界に生きていた自分を重ね合わせて読みました。司馬さんの描く土方は自分にとって生きる指針です。

 連作短編の『新選組血風録』も好きです。『坂の上の雲』などは何回も読みましたが、唯一読んでいないのは『街道をゆく』。これはもう少し歳を取ったときにじっくり読もうと、あえて今は読まずにいるんです。司馬さんが歩いた街道を、できれば自分も歩いてみたいですね。

 『燃えよ剣』と同じぐらい大好きなのが、池波正太郎さんの『原っぱ』。池波さんと言えば、『鬼平犯科帳』、『剣客商売』、『仕掛人・藤枝梅安』などが有名で、自分も夢中になって読みましたが、この作品は池波さんには珍しい現代小説。東京の市井の人々を描いた、殺しもチャンバラもない、どちらかと言えば地味な話です。でも、人情の機微がつまっていて、思わずほろりとさせられるんですよ。

 この2人と並んで日本の文芸の大きな存在だと思うのが藤沢周平さん。最初に一番凄い作品を読みました。『蝉しぐれ』です。少年藩士の成長が自分が野球をやっていた少年時代に重なるんですが、強烈に覚えているのは、12歳の女の子が蛇に指を咬まれたとき、滲んだ血を主人公が吸う冒頭の場面。ぞくぞくっとした色気を感じました。実は藤沢さんの娘さん(エッセイストの遠藤展子氏)と家族ぐるみのお付き合いをさせてもらっている縁で、去年、山形県の鶴岡市立藤沢周平記念館で、藤沢さんの作品について講演してきました。

 僕は、作品に描かれた男の生き様に惚れて作品が好きになるんですが、その意味でひと頃はまったのが山崎豊子さんです。とても女性が書いたとは思えない骨太の作品ばかりでしょう。『白い巨塔』『華麗なる一族』『不毛地帯』『大地の子』『沈まぬ太陽』……すべて読みましたよ。なかでも『不毛地帯』で、主人公がついに石油を掘り当てる場面では読んでいる自分まで体が震えました。

NEWSポストセブン

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