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【田所龍一 虎番疾風録 Vol.32】79日ぶり「江川騒動」決着 金子鋭コミッショナー「元はボクのまいたタネだ…」

 「ボクは辞めるよ」。金子鋭コミッショナーの突然の辞任宣言に鈴木龍二、工藤信一良両リーグ会長も「なら私たちも辞めます」と叫んでいた。

 「待ちなさい。3人とも辞めたら大変なことになるじゃないか。君たち2人はとどまって、野球界のために尽くしてください」。金子の強い言葉に2人は黙ってうなずくしかなかった。

 実行委員会では3つのことが採択された。(1)江川卓-小林繁の交換トレードを白紙に戻す(2)巨人から阪神へ移籍した小林は、交換ではなく“単独”トレードとして認める(3)江川に関しては4月7日の開幕前のトレードは認めない。安芸キャンプには参加させず、自主練習とする。

 この決定を受けて巨人の長谷川実雄代表が発言した。

 「今度の問題では、野球協約の解釈で違反した部分があり、世間をお騒がせしたことを申し訳なく思っています。深く反省しおわびしたい。そこで巨人は5月末まで、江川の現役選手登録を差し控えたいと思います」。会場から拍手が起こった。あの電撃契約から実に79日ぶりに『江川騒動』が決着した。会議の終わりに、金子コミッショナーが発言を求めた。

 「昨年(78年)12月の実行委の席で出した“要望”の真意が、正しく受け取ってもらえず心外だった。しかし、社会やファンに迷惑をかけてすまない。そこで、きょう限り、コミッショナーを辞任したいので、了承してほしい」。深々と頭を下げた金子を大きな拍手が包んだ。

 金子はその夜、東京・南荻窪の自宅前で連盟担当記者たちの最後の囲みに応えた。

 「元はボクのまいたタネだ。責任逃れは嫌いだよ。ただ、プロ野球界のためにやったことが、巨人のため-と受け取られたことは心外で残念だった。それにしても、数えで80歳の私がよく持ったと思う」

 昭和51(76)年に6代目コミッショナーに就任。53年の日本シリーズでは、ヤクルト・大杉勝男の本塁打の判定に抗議し続ける阪急・上田利治監督に「このオレが頭を下げてもダメか!」と怒鳴った熱血漢-。玄関に入りかけた金子がふと、思い出したように振り返り、報道陣にこう言った。

 「そうそう、後任は実業界の人より、法律家の人がいいと思うよ」

 気骨もちゃめっ気もある人物だった。(敬称略)

 ■田所龍一(たどころ・りゅういち) 1956年生まれ。大阪芸大卒。サンケイスポーツに入社し、虎番として85年の阪神日本一などを取材。産経新聞(大阪)運動部長、京都総局長、中部総局長などを経て運動部編集委員。「虎番疾風録」のほか、阪神×南海の日本シリーズが繰り広げられた「東京五輪だけじゃない~昭和39年物語」も産経新聞(大阪発行版)に執筆中。

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