「告げ口外交」転換アピールの韓国、慰安婦問題を棚上げ状態に 友好ムードの陰で日本疑念

初会談を前に握手する韓国の文在寅大統領(右)と安倍首相=7日、ドイツ・ハンブルク(代表撮影・共同)

 7日に行われた安倍晋三首相と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の初会談では「シャトル外交」の再開で一致するなど双方が友好ムードを演出した。ただ、文氏は一昨年末の慰安婦問題をめぐる日韓合意の再交渉を訴えて大統領に当選しており、日本側は警戒を解いていない。

 「アンニョンハシムニカ!」

 安倍首相が韓国語であいさつすると出席者から笑い声が上がり、会談は和やかな雰囲気で始まった。両首脳が合意したシャトル外交再開は韓国側が求めたもので、朴槿恵(パク・クネ)前大統領が就任後2年半にわたり安倍首相との会談に応じなかったのとは対照的だ。

 核・ミサイル開発を続ける北朝鮮の脅威が増す中、首脳対話の機会が増える意義は小さくないが、対話が必ずしも問題解決につながるわけではない。最大の懸案は現在も慰安婦問題だ。

 一昨年末の日韓合意をめぐり、文政権は交渉過程を検証する作業部会を外務省に設置した。日本側が求める釜山(プサン)の日本総領事館前の慰安婦像が撤去される見通しは立っていない。文氏自身も6月下旬に「日本は公式に謝罪することが必須だ」などと発言した。

 韓国世論に押される形で、文氏が「本音」を前面に出し、問題を蒸し返して合意の再交渉を求める可能性は否定できない。文氏は7日の会談でも合意が韓国国民に受け入れられていないとした上で「過去の歴史による傷を適切に管理」することを求めた。北朝鮮との対話に前のめりな姿勢も日本には懸念材料だ。

 会談に同席した野上浩太郎官房副長官は「首相と文大統領との間で個人的な信頼関係を築くことができ、有意義な会談だった」と語った。だが、真に未来志向の関係を築けるかは今後の文氏にかかっている。(ハンブルク 原川貴郎)

 ■文氏「障害となってはいけない」…でも

 就任後、初の日韓首脳会談に臨んだ韓国の文大統領は、安倍晋三首相に「しばしば会い、深く対話する機会を持ちましょう」と呼びかけた。慰安婦問題などをめぐって海外で日本を批判する「告げ口外交」を繰り返し、結局は一度も訪日しなかった朴槿恵(パク・クネ)前大統領とは全く違う、気さくな印象を伝えたかったようだ。

 文氏は5月の就任直後の安倍首相との電話会談で、慰安婦問題をめぐる日韓合意について「国民の大多数が心情的に受け入れられないのが現実だ」と伝えており、今回の会談でも従来の主張を繰り返した。

 その一方、「慰安婦問題が関係発展の障害となってはいけない」と述べた。さらに、北朝鮮の核・ミサイル問題への協力やシャトル外交復活、未来志向的な関係構築など日韓が協力しやすい分野に言及し、対日関係改善への意欲を示した。

 文氏は就任前から、日本に対しては歴史問題と経済・安保の問題を切り離す「ツートラック外交」で臨むことを明言している。「歴史問題が存在しても、現実的に考えれば日本との関係は重要だと認識している」(韓国政府筋)という。北朝鮮、国内経済や雇用といった問題が山積する中、朴政権下でこじれた日本との関係をこれ以上悪化させたくないわけだ。

 大統領就任前まで日韓合意の無効や再協議を主張していた文氏だが、就任後は「再協議」の公言を控えている。ただ、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した合意を日本が順守、履行した一方、韓国では合意の精神や国際条約に反し、ソウルの日本大使館前に続き、釜山の日本総領事館前にも慰安婦像が設置された。

 文氏は欧米メディアに、慰安婦問題での日本の法的責任や公式謝罪、努力不足を主張した。無難に終えた初の日韓首脳会談だが、韓国側が後回しとし、棚上げ状態にした慰安婦問題はくすぶり続けている。(ソウル 名村隆寛)