文政権、自主防衛強化に傾く 北ICBM、韓国に対米不安も

7月29日、韓国東部の日本海側で行われた米韓両軍のミサイル発射演習(韓国軍合同参謀本部提供・聯合=共同)

 【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を受け、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、有事に先制・反撃するためのミサイル体系の強化に本腰を入れ始めた。宋永武(ソン・ヨンム)国防相は原子力潜水艦の建造にも言及。文大統領の自主国防路線に沿ったものだが、米本土がICBMの射程に入れば、米国が韓国防衛を躊躇(ちゅうちょ)しかねないとの危機意識も影を落としている。

 7月28日深夜にICBMが発射された直後、韓国政府は突如、米韓ミサイル指針の改定交渉を進めると発表。トランプ米政権も「同意」を表明したという。

 射程800キロの弾道ミサイルでは、現行の指針で500キロに制限されている弾頭重量を1トンに増やすことを目指す。有事の際、北朝鮮が中国との国境近くの地下深くに設けた拠点へも攻撃が可能となるからだ。

 北朝鮮のミサイル攻撃に対応する韓国の防衛戦略は、発射兆候をつかんで拠点を先制攻撃する「キルチェーン」や、北朝鮮に反撃し、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長がいる中枢部を含む地域を集中攻撃する「KMPR」などが柱となっている。韓国紙、文化日報は、北朝鮮のICBM発射を受け、文氏が特に、KMPRを早期に整備するよう指示したと報じている。

 また、宋国防相は7月31日、原子力潜水艦の建造について、国会で「検討する準備ができている」と発言した。北朝鮮が潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)で奇襲攻撃を仕掛ける恐れが格段に高まったためだ。ただ、燃料となる高濃縮ウランの生産は米韓原子力協定で禁じられており、実現化のハードルは高い。

 ミサイル攻撃力の強化や原潜建造は、文氏が公約に掲げてきた自主国防路線に沿ったもので、文氏は現在、国内総生産(GDP)の2・4%の国防予算を任期内に2・9%に引き上げる方針を示している。

 韓国内では、米ニューヨークやロサンゼルスが北朝鮮のICBMの射程に入った場合、米国が自国への核攻撃を顧みず、果たしてソウルの防衛を優先させるのかと疑問視する声がある。保守系世論には、韓国の核武装の主張まであり、こうした不安感が結果的に文氏の自主国防を後押ししているともいえそうだ。

 しかし、対北攻撃力の増強は、北朝鮮が批判する「対決シナリオ」そのものであり、文氏の「対話」路線がますます説得力を失うジレンマを抱えている。