慰安婦問題糾弾、米ワシントンで再び活発化なワケ 根拠ない「20万人」説がいつの間にか30万人に…

米南部バージニア州フェアファクス郡に設置された慰安婦碑。後ろは郡庁舎(加納宏幸撮影)

 米下院が2007年に慰安婦問題で日本政府に公式謝罪を求めた対日非難決議を採択してから7月30日で10年がたった。「日本軍が強制的に若い女性たちを慰安婦と呼ばれる性的奴隷にした」と決めつけた決議は日米関係にも禍根を残した。安倍晋三首相が第二次大戦への「痛切な反省」を表明した15年4月の米議会演説、同12月の日韓合意で沈静化するかにみえた韓国系による糾弾の動きが首都ワシントンで再び活発化している。

 北朝鮮が再び大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射や核実験に及ぶのではないかとワシントンに緊張が走っていた27日、米下院議員会館の一室で韓国系団体「ワシントン慰安婦問題連合」が10周年を記念する集会を開き、約50人が集まった。「第二次大戦における性的奴隷の尊厳を回復するために」という横断幕が掲げられた。

 「アンニョンハセヨ!」。登壇した決議共同提案者のエド・ロイス下院外交委員長(共和)は韓国語で元気よく挨拶して拍手を受けると、「私たちは偉大な勝利を手にした。連邦最高裁判所が慰安婦を記念するカリフォルニア州グレンデールの慰安婦像を撤去させる試みを拒絶したのです」と続けた。

 米国在住の日本人らがグレンデール市に対して慰安婦像撤去を求めた訴訟で連邦最高裁が原告の上告審の請願を却下し、敗訴が確定したことは、韓国系米国人やそれを支持してきた連邦議員には「勝利」なのだ。ロイス氏は島根県の竹島を韓国名を使って「独島は韓国のものだ」と主張して会場を盛り上げ、韓国系に迎合した。

 決議を提案した日系人のマイク・ホンダ前下院議員(民主)も落選中ながら会場に顔をみせ、「私たちは命や尊厳を失った20万~30万人のために戦い続けなければならない」と訴えた。ホンダ氏はこれまで根拠がない「20万人」説を主張してきたが、いつの間にか最大30万人にまで増えていた。

 ホンダ氏は安倍晋三首相に「明白な謝罪」を要求し、全米で慰安婦像・碑が「10の市にあり、もっと建てられるだろう。支援しなければならない」と呼びかけた。

 米議会から車で30分余りのバージニア州フェアファクス郡にも慰安婦の碑はある。ワシントン慰安婦問題連合が2014年、郡庁舎の敷地内にある緑地に設置した。碑には「20万人を超える女性と少女が、強制的に性奴隷にされた」と浮き彫りにされ、決議の提案者としてホンダ氏の名前もある。

 駐車場からは離れており、たまに碑の近くを通りかかるのは休憩中の郡職員がほとんどだ。図書館で勤務する50代の男性は、たまたま碑の両脇に設置された蝶のオブジェに座り、碑文を読んで由来を知ったという。

 男性は「どうして韓国に関する碑がここにあるのか分からなかったが、あなた(記者)の説明で批判があることもよく分かった。初めて見る人は書いてあることが正しいと思ってしまうよね」と語った。地理関係の仕事をする30代の男性職員は「何年か前に韓国の女性が大々的に式典をしたことは覚えているけど、日本が反対していることは知らなかった」と答えた。

 フェアファクス郡は韓国系の人口が多い。郡庁舎前で白人女性が配っていた教育委員補欠選挙で民主党候補への投票を呼びかけるチラシには韓国語での記述もあった。女性は「ここに住む韓国系の力は大きいのよ」と屈託なく笑っていた。

 ワシントンでの韓国系の動きに詳しい関係筋によると、15年末の慰安婦問題に関する日韓合意への対応をめぐって韓国系団体の間で意見対立が生じ、活動は一時停滞していた。ワシントンに慰安婦像を設置する構想も、像そのものは造ったものの設置場所が決まらない状況が続いているという。

 しかし、韓国の文在寅大統領が日韓合意を検証するとしていることは、韓国系にとっての「希望の兆し」(ホンダ氏)となっている。

 文政権が「日本軍『慰安婦』被害者記念日」制定を表明した問題で、国務省のヘザー・ナウアート報道官は7月20日、韓国メディアから「性的奴隷制度」への認識を問われ、「全般的に非難している」と答えた。

 発言の真意に関する産経新聞の問い合わせに、同省は「第二次大戦中に日本軍に性的目的で女性が人身売買されたことはひどい人権侵害だ。米政府の立場は変わっていない」と答えた。

 米政府関係者によると、ナウアート氏の発言は質問の意図を十分に理解しないまま一般論として「人身売買」について答えたという。

 しかし、人身売買はドナルド・トランプ大統領が信頼する長女イバンカ大統領補佐官が熱心に取り組んでいる課題であり、慰安婦問題が現代の人身売買と同列の人権問題として扱われることになれば、日本に対する誤解が広がってしまう。

 全米で慰安婦像・碑の建設を続ける韓国系の狙いはそこにある。特にワシントンが持つ「拡声器」としての機能を軽視すれば、07年の対日非難決議のような取り返しのつかない事態を招く。(ワシントン 加納宏幸)

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