【最新国防ファイル】東西冷戦当時を彷彿とさせる「北演29」 北海道全土が実践的な戦場に

日本の領土と領海を守り抜く「北演29」

 9月16日から28日まで、北海道全域を使い、過去最大規模となる「北部方面隊総合戦闘力演習」が行われた。通称「北演29」。人員1万7000人、車両約3200両、航空機約50機。さらに、海上自衛隊の艦艇や航空自衛隊の航空機なども参加した。

 北海道を防衛警備するため、陸上自衛隊は約4万人を有する北部方面隊(司令部・札幌)を置いている。戦車300両、火砲200門と、重装備が集中配備されているのが特徴だ。ここまで巨大な戦力を持つ理由は、目前にかつての仮想敵ソ連がいたからである。

 北海道の目と鼻の先にある北方領土などから、ソ連軍が着上陸するのを阻止するのが目的である。ソ連軍は、戦車を中心とした大規模陸上部隊を構成しており、こちらも重装備で固める必要があった。

 しかし、ソ連が崩壊し、東西冷戦が事実上終結すると、北部方面隊も縮小へと動きはじめる。かつては600両もの戦車を配備していたが、先述したように半分へと削減されている。それでも他の方面隊よりも圧倒的な戦力を誇る。

 今回の「北演29」で特筆すべきは、まさに北海道全土が「戦場」となったことだ。

 浜頓別の小高い山の上には、偵察部隊が監視の目を光らせる。宗谷岬には対艦評定レーダーが、幌別町にある旧安牛小学校の校庭には88式地対艦誘導弾発射基が展開した。

 日本領海に迫りくる敵艦艇を撃破するためだ。今回は敵役も配した。漁船をチャーターし、目標としたのだ。演習を「絵に描いた餅」とはせず、実戦的なものとした。

 こうして戦いを繰り広げるも、上陸を果たした敵の猛攻にあい、部隊は一時撤退。防御陣地を構築し、敵の進軍を阻止していった。

 まさに東西冷戦当時を彷彿とさせる演習内容だが、北部方面隊は今回の仮想敵をロシアであるとは一言も言っていない。あくまで「各種事態への対処能力の向上を図る」としている。よって、今回の演習が対中国である可能性は十分にある。

 事実、北部方面隊の各師団・旅団は、「総合近代化師団・旅団」という位置付けとなった。冷戦時代のように、北海道を動かずがっちりと守るだけでなく、侵略事態やテロの脅威など、日本のどこでも駆け付ける態勢を取ると改められた。

 これを受け、海自輸送艦や民間のフェリーを用いて、北海道から九州各地へと展開する訓練も実施している。今年の秋にも同様の転地演習が行われる予定だ。

 宗谷岬から見た青い海は、想定上、沖縄県・与那国島から見た海だったかもしれない。領海を奪われる危機にひんした日本を救うために、北海道の精鋭たちの戦力は必要不可欠だ。

 ■菊池雅之(きくち・まさゆき) フォトジャーナリスト。1975年、東京都生まれ。陸海空自衛隊だけでなく、各国の軍事情勢を取材する。著書に『こんなにスゴイ! 自衛隊の新世代兵器』(竹書房)、『ビジュアルで分かる 自衛隊用語辞典』(双葉社)など。

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