【ぴいぷる】笑涯研究!バナナの皮でイグ・ノーベル賞受賞の馬渕清資氏「常識覆す瞬間に面白さ」

2014年に「イグ・ノーベル賞」の物理学賞を受賞した馬渕清資氏

 ノーベル賞の発表が始まり、日本人の4年連続受賞が注目されている。一方、この9月に米国ハーバード大学で授賞式が行われた「イグ・ノーベル賞」は、日本人が11年連続で受賞。今年はブラジルの洞窟に生息する昆虫のメスとオスの生殖器が逆転しているという北海道大学准教授らの“性器の発見”が生物学賞に輝いた。

 同賞は「世の中を笑わせ、考えさせる研究」に贈られるもの。馬渕氏は、3年前に「バナナの皮はなぜ滑りやすいのか」という研究で物理学賞を受賞した。

 「イグ・ノーベル賞はノーベル賞の格調高さを求めません。漫画と純文学の差ですね。私は根が三枚目で、昔から努力とか勉強にあまり価値を感じません。イグ・ノーベル賞の方が体質に合いますね」

 約40年前から人工関節を研究。バナナの皮と動物の関節には成分の似た粘液が存在し、そのことを「関節の潤滑の仕組みは、バナナの皮を踏んだときの滑りのよさを連想させる」と報告した。その後、バナナの皮が滑りやすいことを学術的に示したデータがどこにもないことに気づく。そこで、バナナの皮を踏んで摩擦係数の測定実験を繰り返し、床より6倍滑りやすいことを実証した。

 「人工関節の滑りが悪いと、プラスチックなどの材料がすり減り摩擦粉が出て、患者に有害です。それを防ぐには、滑りをよくする必要があります。材料の開発だけでは限界があるので、私は体内の液体に依存した仕組みを整えるべきと主張しています。バナナの皮が粘液で滑るという事実は、その主張を裏づけるものになりました」

 1本のバナナでデータは3回。学生にもどんどん食べてもらった。論文ができ、これほどイグ・ノーベル賞にふさわしいものはないと思った。

 「バナナで滑って転ぶシーンは、チャプリン映画の時代から言葉の壁を越えた世界共通のギャグアイテムですからね」

 2014年春にノミネートされたが、その後、音沙汰がない。7月下旬に「授賞式はどうする?」との問い合わせが来た。実のところ、受賞の通知は4月に送られていたが、迷惑メールとして受信されなかった。慌てて渡航を準備。渡米2日前に航空券の奥さんの性別を間違えたことが判明して「エーッ」。ドタバタ劇を繰り広げた。

 「この年から授賞式はナマで全世界に動画配信されると聞き、プレッシャーもありました。バナナで滑れば笑いが起こるはずですが、笑いものにはなりたくない。ここはひとつ、笑わせにいこうと思い、選んだのが映画『天使にラブソングを』の挿入歌『I will follow him』の替え歌。繰り返しの部分が『バナナ、バナナ』とぴったりハマるんです」

 猛練習の参考にしたのが、動画で存在を知ったばかりの乃木坂46のステージだった。

 「若い女の子たちが大勢の前で堂々と歌っている。彼女たちはひたすらお客さんに喜んでもらおうと割り切っている。それで吹っ切れました」

 大学は工学部だったが、自動車や電気製品作りには熱意が湧かない。もともと生き物が好きだったので、卒業研究テーマを選ぶ際、生命科学に寄った人工関節の研究を選び、その縁で医学部のスタッフになった。

 「物心ついたころには生物の世界に心を奪われて、野球をしている広場の片隅で、1人だけアリの巣をつついていました。イジメっ子には毛虫を自分の口に入れて撃退していました」

 中学までシマヘビを飼い、高校時代にはオウムと寝食をともにした。

 「まさに変わり者。他人との交流は苦手でしたが、思春期を過ぎたころ、周りの人の幸福感が自分に伝染して楽しくなることに気がつき、高校では率先してパーティー、ゲームを仕切るようになりました。私の提供した何かで皆を幸福にする。それは授賞式のメンタルコントロールの基点になりました」

 バナナの測定実験では、当初、バナナを滑り台に置いてもまったく滑らない。滑るのは踏んだ瞬間という特定の条件の下だけということが分かった。

 「こういった常識が覆るような瞬間に面白さを感じます。昨年、ノーベル生理学・医学賞を受賞した東京工業大の大隅良典栄誉教授は、『研究費を取るために“役に立つ研究”と言わされ続けることが、科学をダメにしている』と語ってました。私なりに思ったのは『面白さ』です。面白くない研究の実用性を無理に主張するのではなく、研究者が本当に面白く感じるかどうか、ではないでしょうか」(ペン・鈴木恭平 カメラ・寺河内美奈)

 ■馬渕清資(まぶち・きよし) 1950年11月19日、名古屋市生まれ。66歳。78年、東京工業大学工学部大学院博士課程を修了し、北里大学医学部に。94年に医療衛生学部教授。2016年に名誉教授。趣味のフルートは、奥さんのピアノ伴奏で学会の懇親会などで演奏。テニス肘の研究依頼をきっかけにテニスを始め、いまも週1回はコートに立つ。息子3人もテニス好き。囲碁の師匠は学生時代の指導教官、笹田直先生。「人生の多くの部分に教えをこいました」

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