【最新国防ファイル】化学・生物兵器に対応する特殊防護車「NBC偵察車」 車内のラボで解析、物質の特定も

 「CBRNE」(シーバーン)という言葉がある。化学(Chemical)、生物(Biological)、放射性物質(Radiological)、核(Nuclear)、爆発物(Explosive)の頭文字を取った言葉だ。テロの脅威が吹き荒れる今、世界中の軍隊や治安維持機関の間で、最も重要視されている脅威を表している。

 日本は1995年に地下鉄サリン事件という化学テロを経験した。当時、警察や消防には化学兵器に対する知識も装備もなく、自衛隊が大きく貢献した。急遽(きゅうきょ)警察に対し、教育を施し、化学防護服を貸与した。にもかかわらず、CBRNE対策について、陸上自衛隊は世界から後れを取っている。

 自衛隊発足当初から、陸自内に小規模ながら化学部隊を編制していた。化学兵器や焼夷兵器などに対抗するため、資機材をそろえ、訓練を重ねてきた。だが、あくまで「化学」への対処だけを考えており、核兵器や生物兵器への備えは脆弱(ぜいじゃく)だった。

 転機となったのが、99年に発生した「東海村JOC臨界事故」だ。原子力災害派遣として、陸自化学部隊が派遣されることが決まったが、核・放射能に有効な装備は持っていなかった。さらに、2001年に米国で「炭疽(たんそ)菌」を用いたテロが発生した。

 こうした生物兵器を使ったテロに対しては、研究こそしていたが、有効な装備は持っていなかったことが明らかになる。

 そこで、対化学兵器対処用として配備していた装甲車両である化学防護車に中性子防護板を装着することで、ひとまず対放射線を成し遂げた。生物兵器には、04年からフランスより生物偵察車を輸入して配備した。

 これら装備は、化学学校(埼玉県・大宮駐屯地)に最初に配備された。これに伴い、同校の下に置かれていた第101化学防護隊が、第101特殊武器防護隊に改称された。自衛隊ではCBRNEを“特殊武器”と呼ぶことにしたからだ。

 さらに、化学防護車と生物防護車を合わせた新しい装備開発を05年度からスタートした。こうして完成したのが「NBC偵察車」だ。10年度予算から調達を開始した。配備された部隊から、化学防護隊ではなく、特殊武器防護隊へと順次改称している。

 第101特殊武器防護隊は、管轄地域を持たず日本全国へと展開する「中央特殊武器防護隊」へと改編・増強された。

 NBC偵察車内にラボがあり、採取したサンプルを解析し、化学・生物物質の特定ができる。ルーフトップに装備された12・7ミリ重機関銃は、遠隔操縦式で、隊員が汚染された車外に出ることなく射撃できる。フロントガラスは鉄板で覆うことが可能で、このまま運転できるようにスリットがある。

 現在19両が配備されており、最終的に日本全国に配備するため50両体制とする計画だ。

 ■菊池雅之(きくち・まさゆき) フォトジャーナリスト。1975年、東京都生まれ。陸海空自衛隊だけでなく、各国の軍事情勢を取材する。著書に『こんなにスゴイ! 自衛隊の新世代兵器』(竹書房)、『ビジュアルで分かる 自衛隊用語辞典』(双葉社)など。