記事詳細

【昭和のことば】太宰のロマンがさまざまなかたちで残った「斜陽族」(昭和23年)

 このことばは、太宰治の小説のタイトルから取られた。もともとは西に傾いた太陽のことを指すが、そこから戦後没落しつつある旧華族、旧貴族、旧地主、旧資本家たちのことを「斜陽族」と呼ぶようになったのである。

 ここで使われた「斜陽」は、「斜陽産業」「斜陽会社」など、さまざまな語を生み出すことばとなり、本家の斜陽族たちが衰退しきったあとからも、長い間盛んに用いられている。また、斜陽が「社用」に転じ、会社の接待費で飲み食いする人たちを皮肉って「社用族」と言った。

 この年の主な事件は、「帝国銀行椎名町支店で、行員12人が毒殺され、現金が強奪される事件が発生。容疑者平沢貞通逮捕(帝銀事件)」「片山哲内閣総辞職。芦田均内閣成立」「エリザベス・サンダース・ホーム、大磯・沢田邸で開設」「夏時刻を1時間進めるサマータイム開始」「厚生省、母子手帳配布開始」「太宰治、玉川上水で入水自殺」「昭和電工社長贈賄容疑で逮捕(昭電疑獄)」「警視庁、110番設置」「極東国際軍事裁判所、戦犯25被告に有罪判決。東条英機ら7人の絞首刑執行」など。

 この年の映画は『酔いどれ天使』『王将』(邦画)、『美女と野獣』(洋画)。本は島尾敏雄の『単独旅行者』、太宰治の『人間失格』、『菊と刀』(ルース・ベネディクト著、長谷川松治訳)。この年、歌手の美空ひばりがデビュー。日本脳炎の大流行があった。

 小説をきっかけに、風景を表すロマンチックなことばが、経済の上げ下げに準じながら、時々の世相を映し出していった。「斜陽」は、終焉(しゅうえん)の見える悲しいことば。「社用」は、なんとなく得する感のある、ちょっと楽しいことば。太宰は消えた。だが、彼の「ロマン」はさまざまなかたちで残った。=敬称略(中丸謙一朗)

 〈昭和23(1948)年の流行歌〉 「懐しのブルース」(高峰三枝子)「湯の町エレジー」(近江俊郎)「東京ブギウギ」(笠置シヅ子)

zakzakの最新情報をSNSで受け取ろう