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【語り継ぎたい天皇の和歌】動物との出会いと歓びを率直に

 この連載ではさまざまな昭和天皇の御製も御紹介できたらと思っておりますが、掲出歌は動植物を愛された昭和天皇らしい一首です。昭和50(1975)年発表の、米サンディエゴ動物園を訪問された際の作品。今では国内の幾つかの動物園でもオカピーに出会うことができますが、20世紀になって存在が確認された「世界三大珍獣」のひとつであるオカピーは、当時は世界的に貴重な動物でした。アフリカ大陸中部に位置するコンゴ民主共和国の「オカピー野生生物保護区」は、96年にユネスコの世界遺産に登録されています。126代に及ぶ天皇の歴史の中でも「オカピー」の歌をお詠みになられたかたは昭和天皇のみなのではないでしょうか。

 昭和46(71)年に発表された御製では、「かねてよりの訪(と)はむ思ひのかなひたりけふはロンドンに大パンダみつ」という一首もお詠みになられている昭和天皇。昭和天皇の動物の歌というと、「緑なる角もつカメレオンおもしろし わが手の中におとなしくゐて」「この園のボールニシキヘビおとなしく きさきの宮の手の上にあり」も思い浮かびます。

 動物をお詠みになられる昭和天皇の詠みかたはとてもおおらかで、湧き上がる思いを率直に表現されています。読者をほのぼのとした気持ちにいざなってくださるのは、昭和天皇の溢れるほどの嬉しさが今も読み手に伝わるからでしょう。動物との出会いの歓びをこんなふうにまっすぐにお詠みになられる天皇は御歴代の中でもとても貴重です。

 「雑草という草はない」という御言葉を残された昭和天皇は、多種多様な植物とも丁寧に向き合われています。一つ一つの植物の名前をていねいに三十一文字(みそひともじ)に入れ込んで、歌をおつくりになられているのです。昭和天皇にとって歌を詠むという作業は、動植物との一期一会を大切にされながら、「三十一文字の【心の標本】」をつくることだったのかもしれません。

 ほほえましくも、あたたかみの感じられる昭和天皇の動植物をお詠みになられた御製。時節に合わせた植物の歌も、いずれ紹介したいと思っております。(歌人、作家・田中章義)

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