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【zak女の雄叫び】岡本行夫さんからのメッセージ

 新型コロナの感染拡大が始まってから2度目の春。1年前、志村けんさん、岡江久美子さんら著名人が相次いで亡くなり、コロナに対する危機意識が多くの人に共有されたことを思い出す。

 外交評論家の岡本行夫さんも昨春、コロナによって命を落とした一人だ。命日を前に、遺作となった『フォト小説 ハンスとジョージ 永遠(とわ)の海へ』が刊行された。

 中東の海を舞台に、年老いたダイバーと巨大魚ナポレオンフィッシュの交流を描いた物語。海中世界を柔らかい筆致で幻想的に描き、人間の身勝手さと「愛」をテーマにした哲学的な内容だ。

 ダイビングを趣味とする岡本さんが撮影した海中写真など45点が収録され、写真集としても楽しめる一冊に仕上がった。

 刊行に合わせて、岡本さんと親交の深かった国際協力機構(JICA)理事長の北岡伸一さんに話を聞きに行った。

 外交や国際協力の政策作りの場で、岡本さんと仕事をする機会が多かった北岡さんは「国民の命を守るため、現実的な安全保障能力をもつ必要性を提言してきたが、根っこには人間への愛情を抱えた優しい人だった」と振り返った。

 岡本さんは、2017年からJICA特別アドバイザーに就任。ウガンダ、ルワンダなどアフリカ8カ国を訪問した。

 「ウガンダの職業訓練学校を訪ねたときには、仕事を覚えようと努力する若者の姿に心を打たれ、ルワンダの小学校では、何とか環境を改善したいと、帰国後、民間企業に交渉して寄付を集めてくれました」

 物語でも、欧州に密航する途中、海に投げ出されて命を落とすアフリカ難民の悲劇を描いている。

 「岡本さんの主な専門地域は中東と米国だったが、10億もの人が力強く立ち上がろうとしているアフリカの現状を知り、応援したいという思いを持たれていた」と北岡さんは指摘した。

 一方、岡本さんが作品の主軸に掲げたテーマは、美しい海とそれを脅かす環境破壊だ。北岡さんは「これまで自然環境について深く議論したことはなかったけれど、自然を破壊し続ける人間の傲慢への怒りや悲しみという、岡本さんのもう一つの顔を見せてもらった気がします」と語ってくれた。

 哲学的な内容を含んではいるものの、文章自体は平易で読みやすい。編集者によると草稿段階では、漢字が多く、「すなわち」「つまり」を多用するなど説明文のようだったが、編集者の指摘を素直に受け入れた岡本さんにより、物語は磨き上げられ、絵本のような優しさが漂う。教育現場でも関心が高まる持続可能な開発目標(SDGs)の“教科書”にも推薦したい、そんな作品だ。(し)