【傍聴マニアックス】ウィニーで著作権法違反、動画1000本流出

2009.11.26


職も妻も失い…(画・松橋犬輔)【拡大】

 「職も妻も失い、退職金の返納も求められています」

 東京地裁の証言台に立った男は、無念そうに顔をしかめた。がっちりとした体格に真面目そうな話ぶりは、とても罪を犯すような人間には見えない。あと3年で定年を迎えるはずだった野田一郎(58歳、仮名)は、ファイル交換ソフト「ウィニー」に手を出したばかりに人生を棒に振った。

 野田は消防士だった。佐賀県内の高校卒業後、東京消防庁に就職。30年以上にわたって救急隊員として活躍していた。そんな彼が、自宅のパソコンでファイル共有ソフトを使うようになったのは5年前からだ。

 彼は洋楽のファンだった。「プロモーションビデオをタダで見たい」とネットを検索して、ファイル交換ソフト「WinMX」の存在を知った。その後は、並行してウィニーも使い、映画やテレビ番組の動画を落とすのが趣味となった。5年間に野田がダウンロードした動画は4000本、ネットに流出させた動画は1000本に上る。

 勤務先でウィニー禁止令が出たが、「機密を漏洩しなければいいや」と気に留めなかった。

 そんな生活に突然、終止符が打たれた。昨年12月、映画「デトロイト・メタル・シティ」がネットに流出したことに配給元が気付き、監視会社に調査を依頼したからだ。逆探知で野田のパソコンが流出元と判明。8月28日、著作権法違反容疑で警視庁に逮捕された。

 その後、消防庁を依願退職。妻に離婚され、家も追い出された。台所もない安アパートを借りて、近所に住む息子の家に通って食事の世話をしてもらう日々。年も年なので、新しい仕事も見つからない。

 「お金儲けさえしなければ罪に問われないと思っていました。まさか一人で楽しむだけで、こんなことになるとは…」

 野田の言葉は、苦渋に満ちていた。求刑は懲役1年。前科がなく執行猶予がつきそうだが、全てを失った男には大した救いにはならないだろう。(文・安藤健二)

■画・松橋犬輔(まつはし・いぬすけ) 週刊コミックバンチ(新潮社刊)にて、法廷をリアル描いた裁判傍聴記「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」が大好評連載中。また同タイトルをドラマ化した「傍聴マニア09」が22日23時58分から読売テレビ・日本テレビ系列で放映開始!