これは“鉄道遺産”だ! 日本最古のシールド掘削機を発見

2008.07.27


鉄道総研講堂前に仮設置された日本最古のシールド掘削機の一部【拡大】

 鉄道総合技術研究所(東京都国分寺市)は大正期に造られた日本最古のシールド掘削機の一部の展示を始めた。近く歴史的価値を伝える説明板が付けられるが、“鉄道遺産”ともいえる貴重なもの。参考書として当時の技術者たちが使った洋書が土木学会付属図書館(東京都新宿区)に寄贈されたことも重なり、関係者は「先達の苦労の跡を見てほしい」と感慨深げだ。★鉄道特集

 ■ゆがんだ鋼鉄…挑戦の跡  「掘ると上下左右からばかりでなく、下からもプレッシャーがかかり、岩が上ってくる」(昭和27年「国鉄の回顧」から)。

 秋田県由利本荘市のJR羽越線羽後岩谷〜折渡間にある折渡トンネル(下り線、1438メートル)は大正6年6月に着工。途中で軟弱な土質に変わり、坑内を支えていた支保工と呼ばれる柱が壊れ、同8年8月に工事を中断した。土の膨張は最大90センチに及び、日本で初めてシールド掘削機を投入することになった。

 シールド掘削機は鋼鉄製の円筒などで土や水の圧力から切羽と呼ばれる内部を守り、軟弱な地盤で威力を発揮する。19世紀中ごろまでに英国で実用化された。

 日本では折渡トンネルのために大正8〜9年にかけ鉄道総研の前身の鉄道院総裁官房研究所が設計し、横河橋梁製作所(現横河ブリッジ)で完成したのが始まり。その後、丹那トンネルや関門海底トンネルでも用いられ、今では地下鉄や下水道工事に欠かせない機械となっている。

 現在なら超硬合金の刃が付いた面盤と呼ばれる先端部が回転して岩盤ごと削るが、当時は3層に分かれた掘削機の中に十数人が入る手掘り式。外径7・37メートル、長さ3・66メートル、重量86トンで、推進用のジャッキの扱いが難しく、同9年9月から同11年12月にかけて176・3メートル進んだところで動かなくなった。搬出が困難なので、外周の一部としてそのまま埋められたとみられる。

 昭和47年のトンネル電化工事でこのシールド掘削機が発見され、保存用に先端を幅1・2メートル、長さ2メートルを切断した。旧交通博物館(東京・秋葉原)で一時展示したが、同60年ごろ、手狭になったため鉄道総研で引き取っていた。昨年10月にオープンした鉄道博物館(さいたま市)から収蔵の申し出があったが、「前身の研究所が開発したもの。ここにある方がふさわしい」と断ったという。

 ブルーシートで覆った状態で長らく構内の一角で保存していたが、「きちんとした形で歴史的価値を伝えるべきだ」と判断。鉄道総研の小野田滋技術情報課長は「鋼鉄がゆがんでいたり、リベットがすり減っていたり、海外から最新の技術を持ち込んで挑戦した先人の苦労の跡を見てほしい」と話している。★鉄道特集

 ■失敗だった?初めてのシールド工法  技手として折渡トンネル工事に参加した田村里行さんの孫、杉崎忠久さん(59)は今年3月、分厚い洋書「トンネルシールド(原題・Tunnel Shields and The Use of Compressed Air in Subaqueous)」を土木学会付属図書館に寄贈した。

 ロンドンで1906年に発行、A4判、389ページ、紺色のクロスで装丁されている。地理の教員を目指して測量が必修だった大学生の杉崎さんに、田村さんが「読んでみろよ」と渡したものだ。赤線を引いた英文の下に「折渡隧道ニテハ●(判読不能)ト称セリ」などと所々に細かい字で書き込みが加えられている。

 田村さんは参考書として丸善で購入し、読みながら作業を進めていたという。坂本真至図書館業務室長は「日本で初めてのシールド掘削機だからきちんとした説明書もなかったのではないか」と推測する。

 鉄道省秋田建設事務所が大正15年にまとめた「羽越線折渡隧道工事概要」などには、シールドに手動ジャッキ32個を取り付けたことなどが記述されているが、田村さんは「自動車に使うようなジャッキしかなく、何カ所も同時に押すことができずにうまくいかなかった。日本初のシールド工法は失敗だった」と振り返っていたという。

 言い伝えにおびえた地元の人々が工事に反対することもあった。

 「そこに昔大蛇か何か居つてそれが山を掘つたから荒れるのだというのです。極めて非科学的な問題ですが、これがたたるのだ。こんなところを掘つたら大変だと地元の人がいう」(「国鉄の回顧」から)。

 地殻変動で坑内が動く様子を大蛇の動きと思い込んでいたうえに、現場でクジラの背骨が発掘されたことで恐怖はさらに膨らんだ。工事責任者の家族が病気で死ぬ不幸も重なり、難工事となった原因は「大蛇のたたりじゃ」とうわさが広がった。

 工事概要によれば、開通までに5人の作業員が犠牲になった。

 水圧ジャッキに付け替えたシールド掘削機は順調に進むようになったが、やはり調整が難しくやがて制御不能となる。しかし、施行延長176・3メートルの実績を残し、既に難関区間はクリアしていた。従来工法で残りを掘り進めて大正13年に折渡トンネルは開通した。

 昭和21年、トンネル南口に「楯構掘鑿折渡隧道竣工紀念碑」が建立された。後に慰霊碑も近くに建てられた。海外の文献をひもとき、万難に立ち向かい、「楯構掘鑿」によるトンネル建設に挑戦した先人たちの功績をたたえている。★鉄道特集

 

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