ソニック、かもめ…“斬新過ぎる”デザインでブルネル賞の常連

★水戸岡鋭治のお仕事(中)

2008.08.15


883系「ソニック」。国際鉄道デザインコンテスト「ブルネル賞」、鉄道友の会「ブルーリボン賞」を受賞し、グッドデザイン商品に選定された(撮影・岡次宏幸氏、ドーンデザイン研究所提供)【拡大】

 【上】に戻る JR九州の車両デザインを担当する水戸岡鋭治氏(61)が鉄道デザイナーの第一人者として知られるようになったのは、特急の787系「つばめ」、885系「ソニック」などが疾走するようになってからだ。その背景には、水戸岡氏自身でも斬新過ぎると思うようなデザインを求めるJR九州の「進取の精神」もあった。★鉄道特集

 水戸岡氏はJR九州のスタッフを「好奇心の塊」と表現する。「九州はいまだかつてないオンリーワンを求める地域なんですよ」とも。重役たちが居並ぶ新車両のデザインを決めるプレゼンテーションの場。水戸岡氏は「自分でもこれはとんでもない」と思うぐらい斬新で採用されなさそうなA案、「これはそこそこいけるぞ」というB、C案を用意してきた。

 通ったのはA案。「こりゃ大変だ、僕らも苦労するぞ、と思うような案です。よく通ったな、というのが今までJR九州がつくってきた車両です」と笑いながら振り返る。

 平成4年の787系「つばめ」、7年の883系「ソニック」、11年の815系コミュータートレイン、12年の885系「かもめ」−。

 JR九州の車両たちは、立て続けに欧州の世界最高の鉄道デザイン賞「ブルネル賞」に輝いた。鉄道友の会による「ブルーリボン賞」「ローレル賞」、日本産業デザイン振興会のグッドデザイン商品選定といった国内の賞の受賞は枚挙にいとまがない。

 数々の受賞にも「私に能力があったんじゃない。デザイナーは今までにないものを提案する力はあるんです。一番過激なデザインを採用してきたJR九州のスタッフたちが優れていたのです」と謙遜する。

 「作業員たちも製作中の車両に入るとき、ヘルメットを取り、腰に下げた金属類を外してくれた。ぶつけて車内を傷つけてはいけないと配慮していたのです」と感謝も忘れない。

 通勤・通学といった大量輸送に恵まれず、さらに新幹線を持たずに、航空、マイカー、バスとシェアを争ってきたことが、JR九州のデザイン戦略の背景にあったとされる。

 初代社長の石井幸孝氏は著書の中で、〈いかにして「感性的価値」を高めて、普通であれば「マイカー」が当然の若者や女性にもJRの存在を思ってもらうかである。そこで早い時期から車両を中心としたデザイン戦略を経営に取り込んでいくこととしたのである〉(石井幸孝著「九州特急物語」JTBパブリッシング)と述べている。

 水戸岡氏は、ビュッフェやセミコンパートメントなど特別室が設けられた787系つばめについて〈「たんなる移動手段」としての乗り物ではなく、車内で楽しくすごせる列車があるといい」という思いが、以前からぼくの中に強くあって、それがデザインにはっきり表れた電車です〉(水戸岡鋭治『ぼくは「つばめ」のデザイナー』講談社)。

 客席のヘッド部分に付いた動物の耳のようなクッションが目を引く883系ソニックについては、〈“いまだかつて見たこともない車両”をつくることには、おおいに賛成で、車内の色彩計画については、とことん派手で明快なデザインを追求しました〉(同)としている。

 牛の本革製のシートを備える885系かもめでは、〈デザインが一定以上に達すると、乗っている人に一種の心地よい緊張感が生まれるのです。逆に車両がしっかりしていないと、乗客のモラルも低下する、とぼくは考えています。牛の本革は、817系という普通・快速用にも使っていますが、ひどく傷つけられたという話は、まだ聞いていません〉(同)と鉄道車両デザインとモラルの関係について意見を述べている。

 その817系に先駆けとなった通勤車両がブルネル賞受賞の815系コミュータートレインだ。★鉄道特集

 個性的な車両を生み出してきたのは、決して我を通してきたからではない。

 「デザイナーはアーティストじゃない。みんなが望む物、時代が求める物を代わりに造っている。職人の手や工業力を通して、一般の人が『うれしい』と思える物を造ることにしか興味がない。最終的にそれがアートと呼ばれるものまで質が高まればいい」。自然体なのだ。【下】に戻る

 

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