出動する2頭の警備犬「72時間が勝負だ!頼んだぞ…」

★桜林美佐「東日本大震災と自衛隊」

2011.05.31

 震災が発生した日の夜、広島県の呉から1台の車が山口県に向かっていた。

 未明に到着したのは、海上自衛隊岩国基地。MH−53Eヘリのローターはすでに回っていた。

 乗り込んだのは、呉地方隊所属のジャーマンシェパード2頭と、6人の自衛隊員だ。海自厚木基地に飛び、民間の救助犬と合流。宮城県の陸自霞目飛行場を目指した。

 正式な名称は「警備犬」。文字通り、普段は呉にある貯油所を守っている。20頭ほどのうち「金剛丸」と「妙見丸」は、杉本正彦海上幕僚長が呉総監時代に命名した。その後、2頭は厳しい訓練や試験を次々にクリアし、国際救助犬の資格を取得。今回の災害派遣に出動することになったのだ。

 「すごい光景だ…」

 チームのリーダー森田1等陸尉はヘリの窓越しに見える惨状に、息をのんだ。まるで池のような仙台空港や、遠くに立ち上る白煙が、事態の深刻さを物語っていた。

 実は、貯油所には陸海空自衛官と事務官が混在している。ゆえに今回の派遣も、陸自1人、海自2人、事務官3人という編成となっていた。

 森田1尉は陸自から海自に出向し、リーダーを務めていた。退官を迎える今年、まさかこんな形で災害派遣に出るとは夢にも思わなかった。

 しかし、そんなことよりも今は、ケージの中の2頭のことが気がかりだった。

 「72時間が勝負だ。頼んだぞ…」

 特に金剛丸は、最近、体調を崩していた。それでも、いざ出動となったときは、有事だと察したのか、興奮してやる気にあふれている様子がけなげでならない。

 霞目飛行場に到着すると、陸自東北方面輸送隊の車両に乗り込み、拠点となる警察学校へ。そこで待機することになった。

 「時間がないというのに、早く現場に出られないのか」

 犬は、たとえ虫の息でも生存者を見つければ吠える。呼吸に反応するのだ。だからこそ、生存可能といわれる72時間内に現場に出ることが重要だ。チームは焦るが、宮城県警の指揮下に入ったために、独自の判断では動けない。

 一夜明け、やっと捜索開始が下令された。

 CH−47ヘリで女川に入った。目の前に広がるのは、建物の上に電車、バス、船がひっくり返っている悪夢のような街だった。

 「まずは、午前中いっぱい頑張ろう!」

 2頭と6人の自衛隊員は、水だけを持って現場に駆け出した。 =つづく

 ■さくらばやし・みさ 1970年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。震災後、防衛省に加え、被災地を何度も取材した。著書に「海をひらく−知られざる掃海部隊」「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「終わらないラブレター−祖父母たちが語る『もうひとつの戦争体験』」(PHP研究所)など。

 

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