間一髪で老夫婦救出 2頭の犬の足は血だらけに

★桜林美佐「東日本大震災と自衛隊」

2011.06.01

 捜索を開始した自衛隊の警備犬部隊。目指すは生存者の救出だった。だが、水に浸ったがれきの中では臭気が奪われてしまい、捜索は困難を極めた。

 昼休みを挟んで、と言っても犬たちはご飯を食べない。1日1食と決まっているのだ。ハンドラーと道に腰掛けて、つかの間の休憩をした後、午後も「妙見丸」と「金剛丸」は積極的に動いた。しかし、この日、発見したのはご遺体ばかりだった。沈鬱な思いでスタートした翌日。

 「ワンワンワン!」

 犬たちが吠えた。「生存者だ!」建物の2階に、要介護の老夫婦が取り残されていたのだ。駆けつけた捜索隊がご婦人を救出。しかし、ご主人は動くことができない。その時だった。

 「津波警報が出たぞ!」

 誰かが叫んだ。

 「退避!」

 周囲にいた人たちは高い建物に駆けていく。しかし、目の前の老人を置いて逃げるわけにはいかない。 

 警備犬部隊のリーダー森田1陸尉は、1本のロープを取り出した。「安心してください。必ず助けます」

 そして、窓ガラスをたたき破ると、老人と自分の身体をくくり付けた。その場にいた機動隊員に後に続くように指示すると、老人を背負い窓から脱出したのだ。

 森田リーダーは、かつてレンジャー教官を務めたこともある。ロープを使っての救助は、レンジャー訓練では基本項目だった。老人を背負って屋根づたい、途中、倒れた大木をくぐって運ぶのは今年退官する身にはこたえたが、レンジャー徽章の誇りは光っていた。

 陸海空自衛官と事務官による警備犬部隊には、犬が苦手だった者も少なくない。動物を管理するので、土日も正月も関係ない勤務である。

 「なぜ自分が?」

 命令だから仕方がないが、望んできた者はいなかった。

 何の因果か、リタイア直前に配置となったリーダーは、老夫婦を救出し終え、ドロドロになった2頭の犬を見た。釘やガラスを踏んで足は血だらけになっている。2頭も、心配そうにリーダーを見つめていた。精いっぱいに成果を出そうとしている姿は、まるで自衛官そのものだった。

 災害派遣を終えた今、リーダーは残り少ない自衛官生活の間に、警備犬部隊の隊員たちのためにロープを調達し不測の事態に備え訓練を強化しようと考えている。そして、

 「退官後は? そうですね…」

 犬を飼ってみようかと思っているという。

 【さくらばやし・みさ】 1970年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。震災後、防衛省に加え、被災地を何度も取材した。著書に「海をひらく−知られざる掃海部隊」「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「終わらないラブレター−祖父母たちが語る『もうひとつの戦争体験』」(PHP研究所)など。

 

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