衣食住いらない自衛隊の「自己完結」

★桜林美佐「東日本大震災と自衛隊」

2011.06.06

 被災地に行ってきた人が、こんなことを言った。

 「救援活動に来ている人で宿泊施設はいっぱいだったけど、自衛隊は泊まってなかったよ」

 気の毒に思ったというが、自衛官たちにとっては至極当然のことなのである。

 自衛隊は「自己完結能力」を持っている組織。つまり、自分たちで何でもこなすのだ。災害派遣に出ても、宿泊所を必要としない。天幕を張って食事も作る。そして、組織内において「使う側」のニーズに「供給する側」が即座に応じられることも特徴だ。

 今回の震災では、悪路でも走行できる96式装輪装甲車(WAPC)が緊急時の人員輸送などに備えるために派遣されたが、被災者が乗りやすいように手すりや昇降板を取り付けることになった。しかも、「一刻も早く」という要求である。

 まず、材料を手に入れることから始まり、陸上自衛隊関東補給処ですぐに作業を開始。知恵を絞り、乗る人の安全に配慮した車両に生まれ変わらせた。

 「3日くらいは徹夜したんじゃないですか…」

 関係者は振り返る。

 また、海上自衛隊では、福島第1原発事故の対処のため米軍から提供されたバージ船を曳航することになり、大型タグボート(多用途支援艦)1隻とYT(港内用タグボート)3隻が派遣されることになった。

 被曝を少しでも防ごうと、横須賀造修補給所工作部が船内の空気密閉のための措置や、操舵室周辺の防護版の取り付け、タングステンシートの敷設を施した。

 作戦の実施が決定されたのが3月24日夕刻、翌朝には曳航(えいこう)し始めるということで、関係者いわく「地獄の作業」となった。

 しかもその後、船が小名浜に進出したため、陸上から追いかけて行って工事を続けた。

 こうした、いわゆる「後方」の奮闘は、災害派遣の光景として国民の目に触れることはない。しかし、彼ら無しでは自衛隊の活動は成り立たないのだ。自衛隊の「自己完結」とは、人の力がいらないということじゃない。「人の力があってこそ」という意味なのである。家族もまた然りだ。

 ある隊員が、つかの間の戦力回復で自宅に帰り、被災地に戻る前日のこと。妻と娘がかしこまって待っていた。

 「これ持っていって」

 手渡されたのは千羽鶴だった。わずか3日で作ったという。「ありがとう…」−力が湧いてくるのが分かった。

 自己完結。しかし、誰かと手を携えて、自衛隊は成り立っている。

 ■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 1970年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。震災後、防衛省に加え、被災地を何度も取材した。著書に「海をひらく−知られざる掃海部隊」「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「終わらないラブレター−祖父母たちが語る『もうひとつの戦争体験』」(PHP研究所)など。

 

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