開廷わずか5分で「弁護人を全員、解任します」

2011.06.30

 「弁護人を全員、解任します」

 被告人の言葉に、東京地裁の法廷には緊張が走った。公判開始からわずか5分で弁護団が解任されたのだ。長年傍聴してきたが、こんな裁判は初めてだった。

 最初からどこかおかしかった。公務執行妨害という微罪なのに、男女4人の弁護士が並ぶ。開廷時刻を過ぎても被告人が来ない。数分後、黒いスーツ姿の男が手錠をハメられて入廷。やっと裁判が始まった。東京都品川区の大林勝夫(48、仮名)。裁判官に職業を問われると、「資産管理業」とだけ答えて黙秘した。

 起訴状が読み上げられた。4月22日、高輪署で建造物侵入容疑で取り調べ中に、54歳の警察官に抵抗。頭突きを2発食らわせたという。ところが、罪状認否で大林は「すべて否認します」とキッパリ。

 若い裁判官が「では、弁護人のご意見は?」と尋ねると、大林は「待ってください!」と声を荒らげた。「彼らは父が勝手に選任したので、信頼が置けません。この場で解任します」と訴えたのだ。並み居る弁護人は、あきれた表情で被告の顔をのぞき込んでいた。

 「彼らと打ち合わせをしたことすらありません」。大林がそう言うと、主任弁護人の老人が立ち上がった。「とんでもないことだ!」

 被告と弁護人がののしり合う異常な展開になった。傍聴席にいる大林の父親は、のどの病気なのか、ずっと口に機械を当てていた。4人も弁護士を雇うのだから、相当な資産家なのだろう。

 弁護人不在では裁判できない。新しく選び直すため、公判は2カ月後に延期された。裁判官が当惑した様子で「弁護人が見つからなければ、ご自分で弁護できますよ」と言って閉廷。解任された主任弁護人は、よほど不満だったのだろう。

 「どうせ誰がやっても満足されないでしょうから、本人がなさるのがいいと思いますよ!」と捨てせりふを吐いた。わがまま放題の被告に付き合える弁護士は、果たして見つかるのだろうか。(安藤健二)

 

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