女性従業員の悲鳴「山が鳴いている!」

2011.08.10

 「まだエアコンが使えないんですよ」

 工場長はそう言って汗を拭きながら、まだ生々しい傷跡を残している工場を案内してくれた。

 福島県のIHI相馬工場は、GEなどの世界の民間航空機向けエンジンを製造しているだけでなく、自衛隊の護衛艦やF−2やF−15といった戦闘機エンジンなどをはじめ、多くの防衛装備品を手がけている「防衛産業」の1つである。

 3月11日、その最先端技術を担う工場を震度6の地震が襲った。

 「机の下へ伏せろ!」

 鈴木和彦生産管理部長は叫んだ。その日、出張で工場長は不在。すでに次期工場長就任が決まっていた自分が従業員約1500人の安全を確保しなければならないと、瞬時に思った。オフィスの天井が落ちたが、間一髪、そこにいた者にケガはなかった。

 「大丈夫か!」

 見れば皆、頭が白いほこりだらけだ。

 「ヘルメットを被って外へ!」

 しかし、歩こうとしてもすぐに余震が起こる。防災訓練で指定された避難場所に行きたくても、前に進めない。建物の横でうずくまるしかなかった。その時、「ゴオッー」というすさまじい音が耳をつんざいた。

 「山が鳴いてる!」

 地鳴りに女性従業員たちの悲鳴もかき消された。

 電源は落ち、全館放送もできない。しかし、各工場から訓練どおりに皆が出てくるのが見えた。点呼を取らねばならないが、大工場の人員を即座に掌握するのは困難を極めた。

 「今朝、見かけた顔で来てないヤツは?」

 小雪の舞う寒さの中、必死に確認し、全員が避難したことが確認できるまで相当な時間がかかった。外部との連絡は閉ざされ不安が募っていたその時、誰かが気付いた。

 「ラジオがあります!」

 守衛所で使っていたAMラジオ、これが唯一の情報源となった。

 電波を探って耳を傾けると大津波警報を告げている。海岸までは車で数分の場所だ。下手には動けない。

 「子供が心配なんです」

 女性従業員が帰宅したいと懇願してくるが、警報発令下で帰すわけにはいかない。「待て」と言うのはあまりに辛かったが耐えるしかなかった。

 その時、東京・江東区にある本社は騒然としていた。

 「まだ連絡が取れないのか?」

 テレビに映し出される東北の映像に、誰もがだんだんと言葉少なになった。無事であってほしい、そう祈るしかなかった。(ジャーナリスト・桜井美佐)

 

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