日本のために…引退した職人が立ち上がる

2011.09.14

 防衛商社は、中小企業への融資という役割も持っている。

 自衛隊の制服などは、何社かの規模の小さな縫製工場が関わっていて、支払いが60日後になってしまうなどタイムラグに耐えられない所も多い。そのため、商社が先払いをしてくれるという仕組みだ。

 「日本の繊維産業の衰退で、工場はどんどん減っています」

 プライムメーカーとともに、縫製の担い手を求めて全国を探して回り、なんとか引き受けてもらっているのが現状だ。

 「工場」と言っても、その多くが北海道や東北の農家で、農閑期に作業する場合が多く、驚くような僻地(へきち)にも足を運ぶという。

 「でも、どこでもいいわけじゃありません」

 品質を落とすことはできないため、希望通りの担い手を探し出すのは至難の業だ。また、腕のいい職人は頑固で、仕事内容に納得しないとやってくれない。何度でも顔を合わせ、とことんやり合うこともある。

 この、今や数少ない国内縫製工場に大量受注が押し寄せることになった。災害派遣で泥地での行方不明者捜索などを続ける自衛官の被服が、早急に必要となったのだ。

 「今の規模じゃ、無理だ…」

 関係者は困惑した。しかし、思いがけない声が上がった。

 「国のためだったら、やるで!」

 10年以上前に引退し、地元で年金生活をしていた人たちが再びミシンの前に座ると言うのだ。技術の衰えは全くなかった。早速ミシンを増設し、必死の作業が始まった。

 しかし、その力があってもまだ間に合わない。商社とメーカーは他にも作業者を探した。どこに行っても熱い言葉が返ってきた。

 「オレも頑張るべ!」

 かつて日本の繊維産業を支え、戦後復興を成し遂げた、おやじやお母ちゃんたちの姿がそこにあった。

 「最後は人がミシンを踏んで服はできあがります。機械がいくつあっても作れないんです」

 また、被災した東北には「ミシンを踏める人がたくさんいるはずだ」と、雇用促進につなげたいとも考えている。

 現在、繊維製品の95%が輸入である。これが100%になったら、有事でもただ待つことしかできない。

 「われわれはチームジャパンとして、地域や国のためになりたいんです」

 たった5%の底力。未曽有の国難に際し、国内繊維製造業の意地を見せた。(ジャーナリスト・桜林美佐)

 

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