取り合いになったレトルト食品の生産ライン

2011.09.16

 今回の震災では、レトルト食品の生産ラインが取り合い状態となり、自衛隊もまた、その渦中にあった。

 「自衛隊は当然、備えてあるんでしょう?」

 と言われそうだが、下がり続ける防衛費は、備蓄用の糧食など物品の購入費を直撃していて、平時はなんとか耐えても、有事対応に十分とはいえなかった。

 「すぐに自衛隊対策チームを結成しました」

 ニッポンハムの担当者は語る。震災の数日後に立ち上がった。メンバーはわずか3人。

 「この少数で社内でやり合いました。ケンカに近いこともありました」

 農水省からの指示もあり、生産ラインは大手流通向けに押さえられていた。そもそも、レトルト食品は最もラインが少なく、その弱い部分に日本中のニーズが集中したのだ。

 自衛隊対策チームは「10万人体制」の自衛隊のために何ができるのか、苦悶(くもん)しなければならなかった。

 「本来なら、自衛隊向けラインが欲しいところですが、そうはいかず、大手スーパーなどに割り当てられたラインから少しずつ、分けてもらったんです」

 イオン、ダイエー、ヨーカドー…。社内は各担当者によるラインの取り合いの様相となり、まるで戦争のようだった。

 自衛隊チームは、それぞれの担当者に頭を下げて頼み込むしかなかった。

 「こっちも大事なお客さまなんですよ!」

 取引先には自衛隊チームからも頭を下げた。

 「お前は自衛隊から褒められるからいいが、オレはなあ…」

 言い返す言葉がない。同僚には黙って謝るしかなかった。同じ社員として心苦しかった。

 「まずは、とにかくカレーだ」

 生産性が高く、保存期間が長いレトルトカレーの大量生産が始まった。

 このため現場では、毎日常にカレーが出ることになった。

 さすがに辛くなってきたという訴えも聞こえ、牛丼や親子丼製造に切り替える検討が始まった。

 しかし、これらはカレーと比べて生産量が落ちてしまい、やはり、どうしても数量確保のためにカレーを続けるしかなかったという。

 生産ラインが有事に取り合いになり、災害派遣活動にあたる自衛隊までもその競争の中で翻弄される。国民のために働く人たちに補給が確保されないことになる。

 担当者が頭を下げ続けなければ、カレーだとて手に入らなかった可能性もあるのだ。(ジャーナリスト・桜林美佐)

 

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