日本一ドラマティックな「タクアン缶詰」

2011.09.20

 イラク派遣から戻った隊員と現地での食事の話をしたとき、こんなこぼれ話を聞いた。

 「隊員同士は非常にうまくいっていましたが、険悪なムードになりかかったのは、タクアンを食べようとしたときです」

 当時、タクアンの缶詰には分厚いタクアンが3切れ入っていて、それを2人で食べることになっていたのだ。

 「これでは、隊員同士が戦うことになってしまうと、改善されたんですよ」と製造関係者は苦笑する。一切れを小さくして1人1缶にしたのだ。

 タクアンはハードな活動をする隊員の野菜や塩分の供給源であり、海外派遣でも欠かせない。

 その缶詰が今回の震災で被災してしまった。納品のため青森県八戸市の工場から海岸近くの運送業者に運んだ際に津波に襲われたのだ。幸い流されずに無事だったが、4割が海水に浸かり、数十万缶が被害にあった。

 そのままでは錆びてしまうので、1つひとつ洗って乾かし丁寧に拭かなければならず、遅延はしたが人海戦術でなんとか納品に漕ぎ付けた。

 そもそも、タクアン缶詰は大分県で作っていた。原材料の大根が鹿児島産だからだ。ところが、加工を請け負っていた企業が倒産。タクアン缶詰消滅の危機に際し、関係者があちこちに頼み込み、引き受けてくれたのが八戸の工場だった。

 「ノウハウごと継承されることになりました」

 かくして、東京のプライム企業A社が中心となり、九州と東北の2社間で技術の継承がなされた。大げさと思われるかもしれないが、自衛隊の物品はどれも厳しい仕様となっており、タクアンも例外ではない。

 大根の繊維が少しでも残っていたらNG、幅や高さは極めて厳密で、当然、機械では切ることができず手作業で行う。いびつな形の大根の歩留まりが小さいことも覚悟しなければならない。

 「この厳しさを受け入れてくれる所でないとできないのです」

 九州の大根を八戸で加工するのは遠すぎるが、条件に見合う所はそうそうないのだ。ライセンス料や運搬費は、プライム企業のA社が負担する。

 何のメリットがあるのか? おそらく手を引いても経営上は何ら影響ないであろう。しかし、担当者は胸を張る。

 「自衛隊のためにやっていることが会社の誇りなのです」

 自衛隊のタクアンは、日本一安くて日本一検査が厳しいが、日本一ドラマティック! と、言えそうだ。(ジャーナリスト・桜林美佐)

=おわり

 

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