亀岡事件はなぜ“危険運転”でないのか

2012.07.27


初公判終了後、遺影を胸に会見に臨む遺族ら=19日、京都市中京区(安元雄太撮影)【拡大】

 今年4月23日、無免許運転の少年が、京都府亀岡市で集団登校中の児童ら10人を車ではねて死傷させる事件が発生した。先日、その事件の裁判が始まった。遺族らは、その少年が無免許運転であったことなどから危険運転致死傷罪による起訴を切望したが、検察は危険運転致死傷罪ではなく、自動車運転過失致死傷罪で起訴した。睡眠不足による居眠り運転も伴った本件につき、どうして危険運転といわないのかとの批判が多い。一般人の感覚と司法当局の判断とのギャップが著しい典型例である。

 なぜ、検察は、危険運転致死傷罪で起訴しなかったのか。本日は、その判断および今後の方向性について視界良好としたい。その読み解き鍵は、「拡大解釈という武器を与えることは危険、ゆえに速やかな法律改正を」である。

 検事の多くは、素朴な正義感を有し、残忍・悪質な事件には厳罰をもって臨みたいとの気持ちが強い。本件もできることなら危険運転致死傷罪で起訴したいと思ったに違いない。しかし、危険運転致死傷罪による起訴を断念したのは、条文の解釈に壁があったからである。つまり、それを適用できる場合の一つとして刑法が定める「進行を制御する技能を有しない走行」につき、これまでは「無免許運転だから直ちに認められるというものではなく、実質的に進行を制御する技能を有しない未熟運転をいう」との解釈が採られてきた。皮肉なことに、日常的に無免許運転を繰り返していれば、進行を制御する技能を有していたとされてきた。そのため、本件を危険運転致死傷罪で起訴しようとすると、従来の解釈を変更し、「無免許運転はすべからく進行を制御する技能を有しない」との拡大解釈が必要となる。

 ところが、一般的にこの拡大解釈は大変危険。処罰範囲を自由に変更できる拡大解釈という手段・武器を当局に与え過ぎると、例えば、昨日まで処罰されなかった行為が今日からは拡大解釈によって処罰できるということにもなりかねず、国民の利益を侵害する恐れがある。

 他方、遺族らの気持ちも痛いほど分かり、法律とのギャップがあることも確かである。とすれば早急に法律改正をすべきである。従前から悪質運転の代表例である「酒酔い・無免許・著しい速度超過」の3態様を「交通三悪」と呼んでいる。危険運転致死傷罪が適用できるケースとして、酒酔い運転と著しい速度違反の二つは既に盛り込まれているが、無免許運転は盛り込まれていない。危険な拡大解釈を防ぐ一方、被害者・遺族らの素朴な気持ちを法律でくむには、もはや法律改正しかない。

 ■若狭勝(わかさ・まさる) 元東京地検特捜部副部長、弁護士。1956年12月6日、東京都出身。80年、中大法学部卒。83年、東京地検に任官後、特捜部検事、横浜地検刑事部長、東京地検公安部長などを歴任。2009年4月、弁護士登録。座右の銘は「桃李言わざれども下自ずから蹊を成す」。

 

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