ソニーはなぜアップルに負けたのか 戦略の階層

2012.12.04


戦略の階層【拡大】

 凋落の一途をたどるソニーも、少し前まで飛ぶ鳥落とす勢いで「クール」なイメージのグローバル企業だった。つい最近も、初期のiPhoneの試作品がソニーのデザインを真似て開発されたというニュースが出てきたくらいだ。

 ところが今では昔の面影はあまりない。なぜソニーはアップルに負けたのか。敗因はいくつかある。極めて象徴的なのは、ソニーが投資の分配(大戦略)で失敗している間に、アップルがオンラインの音楽流通システムを開発したこと。ソニーは音楽のソフト(レコード会社→iTunes)、再生機器(ウォークマン→iPod)とハードの市場を一気に奪われた。

 これを「戦略の階層」で考えてみる。ソニーは「大戦略」レベルで失敗している間に、その上のデザインやコンセプトのような「政策」や「世界観」のレベルで勝負を仕掛けてきたアップルに負けたことになる。

 同じことが日本の家電業界にも当てはまる。技術力があっても韓国企業に敗れたのは、新興国などで消費者のニーズをくみ取るマーケティング力で負けたからだ。

 「戦略の階層」の原則は「上が下を決定する」。マーケティングは「技術」よりも高い「作戦」レベルにあるため、韓国企業は勝った。裏を返せば、マーケティングのような高いレベルから勝負できれば、技術力の残っている日本の企業にもまだまだチャンスはある。

 これを理想的な形で実践している企業がある。大手楽器メーカーのヤマハだ。ヤマハは良い楽器を製造する「技術」レベルだけでなく、音楽教室を開いたり、楽器購入のためのローンなど顧客の囲い込み方を工夫することにより、一般的な日本人の音楽環境まで変えてしまった。日本の住宅事情が悪さにもかかわらず、ヤマハは日本を世界一のピアノ所有国にしてしまったのだ。

 ヤマハの「勝利」は、一般的な製造業のような技術レベルというよりも、より高いレベルでの環境づくりによる「コントロール」の典型的な例である。

 ヤマハは商売(バトル)として楽器を売る(勝利)だけでなく、自分たちにとって「長期的に優位な状態」を保つこと(コントロール)を狙い、日本の音楽環境を変えた。このような「自分たちへの有利な環境づくり」こそ、日本人がこれから戦略的に狙っていくべきことなのだ。

 ■奥山真司(おくやま・まさし) 1972年、横浜市生まれ。戦略学博士(PhD)。専門は地政学と戦略論。ブリティッシュ・コロンビア大(カナダ)卒。英レディング大学院で戦略学の第一人者、コリン・グレイ教授(レーガン政権の核戦略アドバイザー)に師事。『世界を変えたいのなら一度“武器”を捨ててしまおう』(フォレスト出版)など著書、訳書多数。ブログ「地政学を英国で学んだ」で日々情報を発信中。

 

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