2つの戦略 順次戦略と累積戦略を組み合わせよ

2012.12.18

 何かを戦略的に成功させようとする場合、その全てはたった2つのやり方に分けられる。2つとは「順次戦略」と「累積戦略」である。この分類法を提唱したのは、元米海軍の将校で、旧日本海軍とも太平洋戦線で戦った経験を持つJ・C・ワイリー海軍少将だ。

 ワイリー氏は「順次戦略」について、自分が参戦した太平洋戦争時の米海軍の動きにたとえ、洋上艦が東京の大本営に向かってすごろく式に侵攻していった様子で説明している。反対の「累積戦略」は、同戦線で米艦隊が日本の潜水艦を1隻ずつ沈めていったのがそれだ、としている。

 順次戦略は現在、ビジネス書などでもてはやされているやり方のほとんどに当てはまる。具体的には目標の設定、数値化、データ化、バランスシートの強調、もしくは「見える化」など、極めて現代的かつ西洋的なやり方だ。

 正反対のやり方が累積戦略だ。1隻ずつ潜水艦を沈めていくように、前後の作戦とつながりのない単発の小さな成果を細かく積み上げる。「見える化」せず、手当たり次第にものごとを進めるという、かなり古い東洋的なやり方である。

 「目の前のことを必死にやれば、いつか努力が報われ花が咲く」というのがまさに累積戦略である。日々同じことを繰り返して小さな成果を積み重ねると、ある時点で突然爆発的な効果(「創発」という)が生まれるのは興味深い。

 累積戦略に通じたものとして、トイレ掃除や早起きの習慣などを勧めるものが多い。いずれも個人や組織の底力を鍛える効果があり、日本では伝統的に重視されてきた。

 この2つの戦略はそれぞれ長所と短所がある。肝心なのはワイリー氏も主張するように、2つを同時に使わなければダメだということだ。

 古いタイプの日本人は「累積」ばかりを強調する。若い人や新しいもの好きな人々は「順次」ばかりに目がいく。ところが戦略本や成功本などで名著と誉れ高いものは、この2つをうまくミックスしてアドバイスしているものばかりだ。2つは東洋思想でいう「陰と陽」の関係のように、両方同時に使われて初めて成果を発揮する。

 本連載で説明してきた「戦略の階層」や「コントロール」、そして「累積と順次」という2つの戦略の両立。これらを理解する人々が増えていけば、日本には輝かしい未来が待っていると私は信じている。 =おわり

 ■奥山真司(おくやま・まさし) 1972年、横浜市生まれ。戦略学博士(PhD)。専門は地政学と戦略論。ブリティッシュ・コロンビア大(カナダ)卒。英レディング大学院で戦略学の第一人者、コリン・グレイ教授(レーガン政権の核戦略アドバイザー)に師事。『世界を変えたいのなら一度“武器”を捨ててしまおう』(フォレスト出版)など著書、訳書多数。「『戦略の階層』を解説するCD」(リアリスト評議会)を発売。

 

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