池波正太郎が通った味を74年間守るとんかつ「とんき」

2013.07.04


「とんき」【拡大】

 43年前、山口太一さんという漫画家の目黒の仕事場に原稿を受け取りに行った新米の私が連れて行かれたのが、この店「とんき」だった。「とんかつをごちそうします」と言いながら、「君には、まだちょっと早いけどね」という前置き付き。1939(昭和14)年に先代吉原功さんが創業、現在の場所に移転したばかりの頃である。

 調理場を囲むようにコの字形になったヒノキのカウンター約40席に横1列に座る光景に目をみはった。

 客の目の前で黙々ととんかつを揚げる店主の表情が実に穏やかだ。満席にもかかわらず店内は静かで、まな板の上でとんかつをひと口大に切る包丁の音が一層の食欲を誘った。

 食材は、「その時々においしいもの」を選ぶが、特別なものを使っているわけではない。その代わり、調理下ごしらえがていねいである。

 米は2升炊きの昔ながらの羽釜で少しお焦げがつくくらいに炊く。ごはんが1粒1粒ふっくら立って甘くて懐かしい。キャベツは茎や筋のかたい部分を取り除き葉だけを極細にスライスして食感がやわらかである。

 メーンのとんかつは、小麦粉→溶き卵を3回繰り返したあと、細かくした生パン粉に軽くくぐらせる。1枚のとんかつをラード100%150〜160度の低温で19〜20分間じっくり揚げる。13枚を同時に揚げられる大きな鍋が5つ。油分少なくカラッと揚がるので、女性や年配者にもやさしい。秘伝のソースは、「暖簾(のれん)分け時にだけ伝えられる」そうだ。

 2代目吉原功輝さん(74)が、45センチほどもあるさえ箸でとんかつを揚げる姿は、先代を彷彿とさせる。その脇を、弟の朝夫さん(67)、泰助さん(64)らが支える。「安くておいしいものを気分よく食べていただきたい」というのは、朝夫さんの長男・出日(いづひ)さん(38)。

 食前後の温かいおしぼりをはじめ、広々とした厨房(ちゅうぼう)内をきびきび動く従業員の客への気配り目配りも、とんきの真骨頂である。

 池波正太郎が足しげく通った店の味とサービスが、今も健在なのだ。

 2階にテーブル席もあるが、ここは1階のカウンターに座り、“一流の仕事”を味わいたい。(谷口和巳)

 ◆とんき 東京都目黒区下目黒1の1の2 (電)03・3491・9928 ロースかつ定食、ヒレかつ定食各1800円、串かつ定食1350円 午後4時〜10時45分 火曜・第3月曜休

 ■谷口和巳(たにぐち・かずみ) 団塊世代の編集者。4つの出版社を転籍、19の雑誌に携わり、編集長として4誌を創刊。団塊世代向け月刊誌『ゴーギャン』元編集長。『女優森光子 大正・昭和・平成−八十八年激動の軌跡−』『帝国ホテルの流儀』(共に集英社)などの書籍も手掛ける。

 

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