筆作り一筋・匠の家系を継ぐ江戸筆「亀井」

2013.08.29

 「一墨五文字」という。

 書道で使う毛筆は、五言絶句の漢詩「春眠不覚暁」のように、1度の墨で漢字5文字がかすれることなく書けなければならない。ところが「ナイロンやポリエステルが混じった筆だと2文字も書けない」。要するに「本物と“保墨”(墨を抱え込む力)が違うのです」と江戸筆の伝統工芸士である亀井正文さん(64)はいう。

 「初代嘉平は京都出身で、もとは関西筆でした。明治の初めに上京して、私で4代目になります」。その亀井さんのもとで、現在、長男の暁央さん(36)が5代目後継者として修業中である。

 奈良時代に編纂(へんさん)された「日本書紀」に高句麗の僧曇徴(どんちょう)が「紙、墨の製法を招来した」と記されていて、これが筆、墨、硯渡来の嚆矢(こうし)とされている。

 筆作りの技術を日本に持ち込んだのは空海(弘法大師)といわれているが、「“弘法は筆を選ばず”はどこに書いてあるのか文献を探したのですが」見つからず、反対に「(平安時代初期)淳和天皇が皇太子の頃に献上された筆に添えてあった文書に“能書(字の上手な人)は必ず好筆を用いる”と書かれている」ことを発見する。

 筆の種類は、広島や豊橋など関西方面で作られる毛の部分を糊で固めた「固め筆」と東京、新潟、仙台などで作られる「捌(さば)き筆」に大別される。江戸筆の基本は「捌き筆」である。

 江戸時代中期になって「読み書き算盤」を教える寺子屋の増加に伴い、筆の需要が一気に増えた。

 書道の世界は「55流派、2万2000団体」あるそうで、筆は流派や技量により作り分け、また漆の器など蒔絵に使う蒔絵筆、人形や能面などの顔を描く面相筆など多種多様。イタリアの修復画家やマイセンの腕時計の絵師など世界中からの注文もある。

 「亀井」の筆は1000種類を超える少量多品種のすべてが手作り。素材は、羊毛、馬毛、狸毛、鹿毛、リスの尾の毛、コリンスキー(ミンクの尾の毛)などが使われる。

 「亀井」は工房で店舗ではないが、常時400種類ほどの筆が用意されている。値段は、半紙6文字用で4000円くらいから、コリンスキーは1万2000円から。

 真夏でも「手のひらに汗をかかない」匠の世界がここにある。 (谷口和巳)

 ◆筆工房亀井 東京都練馬区石神井町5の14の2 (電)03・3996・5046

 ■谷口和巳(たにぐち・かずみ) 団塊世代の編集者。4つの出版社を転籍、19の雑誌に携わり、編集長として4誌を創刊。団塊世代向け月刊誌『ゴーギャン』元編集長。『女優森光子 大正・昭和・平成−八十八年激動の軌跡−』『帝国ホテルの流儀』(共に集英社)などの書籍も手掛ける。

 

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