難解な地震の法則性 「月の引力が地震の引き金を引く」説は?

2013.11.22

 地震計が発明されてから、実は100年あまりしかたっていない。天体望遠鏡が発明されたのは500年も前だし、温度計や雨量計を使って気象観測が始まってからも何百年もたっているのと比べると、地震の観測ができるようになったのはごく近年のことなのである。

 地震計の発明以後、しだいに地震のデータが集まってくると、世界の地震学者が最初に取り組んだのは、地震の起きかたは何によって左右されるのだろうという地震の「法則性」だった。

 しかし、これはなかなかの難問であった。

 最初の「発見」は、昼より夜の方が地震が多いことだった。だが、これはまったくの間違いだった。昼間は人間活動の雑音が高いために、昼間の地震が夜ほどは検知できなかっただけだったのだ。

 1950年代の終わりには、それまでの半世紀間に起きたマグニチュード(M)8クラスの巨大地震のうち15個が、天王星が子午線を通過した前後1時間以内に起きたという論文が出た。

 前に書いた「惑星直列」のような話だが、この論文は他の科学者の追試によって否定された。

 このほか、気圧の変化や雨量など、気象との関連があるという論文も多数あった。

 阪神淡路大震災(95年)や東日本大震災(2011年)は猛暑の翌年に大地震が起きたという俗説もある。この俗説に従えば、今年の夏は暑かったからさて…、ということになろう。しかし、気温が地震に影響するという学術的な研究はない。気温の年変化が地震が起きる深さの岩まで伝わるはずがないからだ。

 そして、最後に残っていまだに決着が付いていないのが月齢と地震との関係だ。惑星直列や天王星と違って、月や太陽の引力ははるかに大きい。海の水を引っ張り上げる海洋潮汐(ちょうせき)だけではなくて、硬い岩である地球の固体部分を毎日20−30センチも上下させるから、惑星直列よりも、はるかに地震を引き起こす可能性が高いはずだ。

 1990年に出た論文では、この100年に起きた大地震は、太陽と月の両方が水平線から30度から50度の間にあるときに多いという。だがこれも否定されて、いまに至っている。

 2012年にまた別の学説が出た。東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)が近づくと、引力の影響が強いときに地震が集中したのだという。東北沖にある日本海溝の近くでこの36年間に発生した多数の小さな地震について、引力との関係を調べたものである。

 とはいえ、月の引力は地震を実際に起こす力に比べると1000分の1しかない。それゆえ「地震を起こす」のではなくて「地震の引き金を引くのでは」という可能性が指摘されているのである。

 これにもいくつもの反論がある。各地での精密な研究では否定的な見解が多いのだ。

 さて、今度の満月や新月、つまり地球が月と、そして太陽に最も引っ張られている日に地震が起きるだろうか。

 ■島村英紀(しまむら・ひでき) 武蔵野学院大学特任教授。1941年、東京都出身。東大理学部卒、東大大学院修了。理学博士。東大理学部助手を経て、北海道大教授、北大地震火山研究観測センター長、国立極地研究所所長などを歴任。『直下型地震 どう備えるか』(花伝社)など著書多数。

 

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