【衝撃事件の核心】
警察署から現れた男は、無数のフラッシュが浴びせられるのを喜ぶように笑っていた−。人気漫画「黒子のバスケ」をめぐる脅迫事件で、大阪市東成区の派遣社員、渡辺博史容疑者(36)が15日、警視庁に威力業務妨害容疑で逮捕された。漫画家を目指していたという渡辺容疑者は「作者の成功をやっかんだ」と供述。昨年10月以降の一連の事件への関与も全面的に認めた。数々のイベントを中止に追い込み、関連商品が撤去されるなど、1年以上にわたる劇場型犯罪で世間を振り回した男は心にどんな闇を抱えていたのか。(中村翔樹、宇都宮想)
■2つのポストに封筒を投函 リュック発見で500キロ尾行
冬晴れとなった15日午後3時過ぎ。東京都渋谷区恵比寿のJR恵比寿駅近くの郵便ポスト前で渡辺容疑者の不審な行動を目にし、警視庁捜査1課の捜査員は確信を得た。それほど離れていない位置に置かれた2つのポストに、続けざまに封筒を投函(とうかん)しようとしたからだ。
「こいつに間違いない」
捜査員に声をかけられた渡辺容疑者は慌てた様子で手袋を外してジャンパーのポケットに押し込み、抵抗するそぶりを見せた。だが、捜査員に追及され、「ごめんなさい。負けました」とあっさりと“敗北”を受け入れた。
この日早朝、捜査員は約500キロ離れた大阪市北区のJR大阪駅近くで渡辺容疑者を発見し、目星を付けていた。
これまでの捜査で、脅迫文が送付されたイベント運営会社など約70社のホームページの接続履歴計約43億5000万件を調べ上げ、大阪市内の複数のネットカフェから接続された共通点があることを突き止めていた。
さらに、各店舗の防犯カメラで、黒地に白線入りのリュックサックを背負った不審な男が出入りしているのを確認。男が東京行きの高速バスのサイトを閲覧していたため、捜査員がJR大阪駅で張り込んでいたところ、同様のリュックを持った渡辺容疑者が現れたというわけだ。
捜査関係者は「12月下旬には、黒子のバスケ関連のイベントが都内で相次いで予定されており、必ず何らかの動きがあるとみていた」と打ち明ける。
渡辺容疑者は午前6時ごろにJR東京駅行きの高速バスに乗り込んだ。捜査員もひそかに同乗して尾行を開始。午後3時ごろ、JR新宿駅のバスターミナルで下り、山手線に乗り換えて降り立ったのが恵比寿駅だった。
捜査1課がにらんだ通り、身柄を確保された際、渡辺容疑者のリュックには12月下旬に都内で開催される高校バスケットボールの全国大会などで危害を加えるという内容の脅迫文が約20通入っていた。